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『ガラスの仮面』秘話満載!『薔薇はシュラバで生まれる』は70年代少女漫画のブックガイド

笹生那実著『薔薇はシュラバで生まれる』というコミックエッセイを読みました。

みじめん
最近、売れてるみたいね。

70~80年代の少女漫画黄金期にマンガ家目指し、やがてデビューし、多忙の合間にいろんな先生のアシスタントを経験した著者の体験談です。背景資料なしでいきなり絵を描かされるとか、睡眠時間15分とか、なかなかのスポコン系でね。

出てくるマンガ家も錚々たるメンバーです。

『ガラスの仮面』の美内すずえを始め、『はみだしっ子』の三原順やら『天人唐草』『日出処の天子』の山岸涼子やら、くらもちふさこの初期作品やら製作秘話がてんこ盛り。語られる作家ごとに絵のタッチが変わるのも本作の面白さの一つでね。

みじめん
以下にネタバレ含む感想を。

『ガラスの仮面』ファンは必読の『薔薇はシュラバで生まれる』

まず、エピソードが多いのが、美内すずえ。
個人的にはこの人の名前があったからこその購入です。

『ガラスの仮面』は人生で3回、全巻揃えました。

 小学生の時に揃え、20歳過ぎに再び大人買いし、40歳を過ぎてまたまた大人買いした。
つまり、2度ほど売り払ったってことなんですが、それはまぁ。北島マヤに影響され、演劇部に入ったこともある。すぐやめたけれど、それもまぁ。

さて、『薔薇はシュラバで生まれる』の著者も小学生の時からの美内ファン。

ずっとファンレターを書き続けて、自身もマンガ家修行をする折、編集者から美内すずえを紹介される。やがて、旅館にカンヅメになっている美内すずえのアシストを頼まれるようになったと・・・。

みじめん
なんと、羨ましい

槇村さとるやくらもちふさこらと一緒にアシスタントをしたなんて話を聞くとさらに。ただ、「2日間で15分の仮眠のみ」とか「布団とお風呂をしばらく見てない」なんて下りにはミーハー心は吹っ飛びます。

傑作ホラー『黒百合の系図』の誕生秘話まで

眠気ざましにみんなで「怖い話」なんてのもカンヅメの常套らしく。で、アシスト中に誰かから聞いた「怖い話」、巡り巡って、美内すずえがマンガ化していた!なんてエピソードも出てきます。

70年代ホラーマンガでは有名な『黒百合の系図』ですね。
私はその後の『ガラスの仮面』で入ったクチなので、北島マヤと同じ顔した主人公がホラーな目に遭っていただなんて、小学生当時にショックを受けた覚えがあります。

とはいえ、こうしたエピソードを読むと読み返したくなるのが人の常。
で、実際、読み返してしまいました。マヤを彷彿させる前向きなドジっ子が主人公で、ストーリー運びにしても、よく出来た作品だと思いましたよ。

ただ、主人公が霊に殺されそうになる下りがあってね。

「電車から降りようとした時、霊に髪をつかまれる」→「電車のドアがしまる」→「首がはさまる」→「結果、顔は車内、身体は車外の状態で電車が走行する」

このシーンはかなり笑えます。書いてて、誰も笑わなかったのだろうか?

みじめん
子どもの頃なら、怖いと思ったろうに

脱線ついで、コミックエッセイの中には出て来なかったけれど、美内すずえの『白い影法師』は小学生時分、『黒百合~』よりももっともっと、怖かった覚えがあります。

本当にトラウマになるほど怖かった。子どもの頃に触れたホラーで一番怖かった。マヤの顔ゆえに、楳図かずおよりリアルに感情移入してしまい、電気つけっぱなしじゃないと寝れなくなった日々を思い出します。

↑ここに入っていました。よろしければどうぞ。

演劇マンガ『ガラスの仮面』はスポ根です!

『薔薇はシュラバで生まれる』に話を戻します。
著者は『ガラスの仮面』でもアシスタントをやっています。北島マヤが芸能界に入る下り、「華やかな迷路」あたり。

テレビ局内の明治時代のドラマセットを資料ナシで描いています。

その上、「こっち側が高くなってて向こう側が低い。2つのフロアをつなぐ階段のある喫茶店をお願い」(by美内すずえ)なんて無茶ぶりにもちゃんと答えています。資料ナシでね!!

ちなみに、この喫茶店はおそらく、華やかな迷路②の17ページの下のコマのことかと。

マヤのお母さんが死んだあたり。悪だくみ女・乙部のりえ(ブス化粧してる付き人。実は絶世の美女!)が、マヤを呼んで母の死にざまを聞かせるシーン。

みじめん
読んでない人にはわかりません。

すみません。

『ガラスの仮面』は一言で言えば演劇マンガです。が、ティストは大映ドラマとスポ根を足した感じ。

人形役を演じるため(体の動きを制限するため)に竹ギブスを付けて生活し、舞台の間は一度たりとも瞬きしないとか。ヘレンケラー役の時は目隠しと耳栓したまま数週間生活するとか。納屋にとじ込められたまま、演技のレッスンを受けるとか。

主人公の北島マヤも、ライバルの姫川亜弓も常軌を逸しているわけですが、作者である美内すずえもやはりスポ根路線の人であろうことは本作『薔薇はシュラバで生まれる』からも伺えます。

「漫画家は3日徹夜、一か月座りっぱなし、一日半絶食は当たり前」なんてコメントもしてますからね。血栓とかできそうな生活で心配です。

みじめん
今はしてないだろうけどねぇ。

『ガラスの仮面』は1976年に始まり、休載を繰り返し、未だラストまでたどり着いていない。最後の49巻から5年くらい新刊出てません。

『薔薇はシュラバで生まれる』では超短時間睡眠で、ひと月に160ページとか書きまくってた若き日の美内先生。精力使い果たしてしまったのか。

どうか続きを。どうか続きを。
未読の人にはあと49巻分の『ガラスの仮面』があるのが羨ましい限りです。

※雑誌掲載時と単行本収録時と内容が違うことで知られる『ガラスの仮面』。雑誌バージョンが知りたくて、今回思わず購入してしまいました。

『天人唐草』を描きたくないと言っていた山岸涼子

『薔薇はシュラバで生まれる』には、ほかに著者と同世代だったくらもちふさことのエピソード(『わずか1小節のラララ』シリーズの蘭丸団の名付け親は著者だった!)とか、

40代で夭折してしまった三原順(『はみだしっ子』)のエピソード等もあります。

そうした中、個人的に「おお!」と思ったのが山岸涼子の『天人唐草』の製作秘話。

著者がアシスタントをしていた時、山岸先生は「いやだわ。この作品、描きたくない」と呟いたことがあったそうで。

それまでの山岸涼子作といえば、ギリシャ神話などの外国モノがほとんど。この時は編集部から「青春モノ」を依頼されて日本を舞台にして描いていたと。

「日本のモノならこれしか浮かばなくて。仕方なく描き始めたけど、ああ、いやだわ」と。

が、出来上がった『天人唐草』は当時の少女漫画の壁を打ち破るような作品でした。

主人公がなんと30歳でね。厳しい父親の元に生まれ育ち、本来はつらつとした子どもだったのが、次第に精神の均衡をきたしてしまう。

今プロットを読むと、よくある話と言えばそうなんですが、冒頭とラスト、飛行場で「きぇー」と奇声を発する不気味な金髪女は少女漫画界に衝撃を与えました。

詩人の穂村弘いわく、友人が年に一度くらい未だマネをするんだそうな。

みじめん
自分も衝撃を受けたクチ?

実を言えば、読んだことを忘れていました。

で、『天人唐草』を手に取ってみたところ、最初の方で既視感を覚えた。

主人公は子どもの頃、「イヌフグリ」という可愛らしい花を知り、その意味を親に尋ね、父親に激高されるんです。

これ、読んだ覚えがある。読んだ当時の自分は小学生で、主人公同様、「イヌフグリ」でなぜ怒られるのかわからなかったわけです。ただ、モヤっ―とした感じはずっと残っていた。

ちなみに、タイトルの天人唐草とはイヌフグリの別名です。

話を戻しますが、「『天人唐草』を描きたくない」と言った山岸先生、後年のインタビューで「あれを描いたことで自分というものをより表せるようになった。転機になった作品です」と語っている。自選作品集にも入っています。

『薔薇はシュラバで生まれる』はコミックエッセイなのでサラッと読めますが、エピソードの一つ一つは結構深くて。多数の名作漫画が出てくるわけで、「これも読みたい」「あれも読み返したい」の延々リピートでもある。

「面白い漫画読みたいな」なんて時のブックガイドにもなりそうです。

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