先日、買った『1980年の松田聖子』。
GW前かな。ずっーと自粛が続きそうな日々にあって、適度にミーハーで適度に読み応えのある本を読みたい。聖子ちゃんの熱狂的ファンではないけれど1980年代の裏表ありそうな芸能界事情とか、今の日常とはかけ離れた世界の話を読みたい。
と、自分のように思う人が多かったのか、一時期ネット書店では入手困難だった模様。
読み応えは思ったよりも軽めでしたが、現場の葛藤なども伺え、コロナを一瞬忘れる程度には面白かった。読後、Amazonミュージックで聖子ちゃんナンバーを聴きまくってしまった。
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今回は「マイ聖子ちゃん」の記憶を辿りつつ、『1980年の松田聖子』のイチャモン半分のレビューをお送りしたいと思いますわ。
松田聖子と個人的メモリアル
入院中に聴き倒した聖子ちゃんのハスキーボイス
まずは、個人的な聖子ちゃんとのメモリアルを。
1971年生まれの自分にとって松田聖子はリアルタイムのアイドルです。
どちからかといえば、松田聖子より河合奈保子や柏原芳恵、中森明菜派だったんですが、1stアルバムの『SQUALL』(1980)から10枚目の『Windy Shadow』(1984)まで全部聴いている。
特に『Windy Shadow』は今でもタイトル見ただけでメロディが浮かぶアルバムです。
『ハートのイアリング』の頃のやつ。このアルバムが出た頃、私は入院しててね。交通事故で首の骨折ってね。1か月も寝たきりになってね。
要は病院のベッドの中で聴き倒したってこと。
首折れ人間であっても聖子ちゃんのハスキーボイスは希望の星でした。
初期のエッセイ本は林真理子が書いていた
もう一つ、聖子ちゃんが20歳の時のエッセイ『青色のタペストリー』も覚えている。小学生の時に友達から借りて読んだ。アイドルのエッセイなのに、イラストの表紙デザインが大人っぽく少し誇らしい気分だったような。
で、これはトリビアなんですが、本書のゴーストライターはなんと林真理子でした。
当時の林真理子といえば『ルンルンを買っておうちに帰ろう』というエッセイで、売れっ子になっていた頃。テレビなんかにも出まくっててね。
『青色のタペストリー』では聖子ちゃんが「最近、林真理子さんの『ルンルン~』を読んで、それがすごくよかった」みたいなことを言ってる。これ実は松田聖子本人の言葉ではなかったらしい。
林真理子が「今、聖子ちゃん本の構成を手掛けるてるんだー」みたいな話を周囲にしたところ、「じゃあ、聖子ちゃんの口を借りて自作の宣伝をしちゃいなさいよ」みたいなことを言われ、悪ノリして書いてしまったと。原稿チェックはしたであろう聖子ちゃんも、特に何も言わなかったらしい。
『野心のすすめ』に綴られていますね。
『1980年の松田聖子』をイチャモン半分のレビューで
10年前のアサ芸連載を書籍化
さて、本題の『1980年の松田聖子』です。
多分、これ手に取る人って聖子ちゃんの大ファンか、もしくは、80年代をよく知っていて、あの時代のギラギラさ加減に逃避したい層だと思います。
で、おそらく生粋の聖子ちゃんファンより、後者の方が得るものは大きいかと。なぜかというと、本書は書下ろしじゃないから。
元ネタは10年前に「週刊アサヒ芸能」で連載されたシリーズ。なので、既にネットで出回ってしまっている情報も多いです。書籍化にあたり、加筆・修正はされていますが、聖子がらみの新しい話は少なそうな。
みじめん
聖子ちゃんがデビュー40周年だからでしょう。急遽決定した企画ではないかと想像します。
誤植が多い!その原因を同業者が分析
急遽決定したんじゃないのか?というのはね。
本書、誤字・脱字が結構多いんですね。
明らかに前後の文章がつながっていないようなところもある。
編集者!もっとちゃんと読みなさい!!
ダメですよ。でも、同じライターの立場から言わせてもらえば、ずっーとずっーと自分の文章を推敲してると、よくわからなくなる瞬間がある。ずっーとずっーと「瞬間」という字を見てると、「瞬間」ってこんな字だったっけ?というのと一緒。
あとは同業者としてミス分析するとね。
1稿、2稿、3稿・・・・・・と修正を重ねていく中で、最初の文章に戻したり、削ったり、また、戻したりみたいなこともしますね。戻して削ってってやってる過程で余計な文章が紛れ込んだのではないかと。
「改稿したら、その都度読み直せ!」って話ではありますが、既に雑誌で発表した記事だったことが裏目に出たのではあるまいか。
最初の雑誌掲載時に原稿チェックはしているはずなんです。「一度チェックを通ったもの」はチェックが甘くなってしまうのが人というもので……。
『1980年の松田聖子』をおススメしない人
いきなり脱線しましたが。
内容面に触れますと、もともと週刊誌の読み切り連載です。「読み切り」ってとこがポイントで、松田聖子にそれほど興味ない人でも「へぇー、そうなんだー」と読み切れる着地点を意識したと思われる。その分、どうにもサックリ終わってしまう印象はある。
というわけで、以下に当てはまる人はご注意を。
② 誤植が気になる人
③ 読み応えのあるノンフィクションを探している人
同じ80年代絡みで、読みごたえを重視したい人には『1985年のクラッシュ・ギャルズ』をおススメします。
『1980年の松田聖子』を賛辞半分のレビューで
デビュー前の松田聖子、夏の嵐を突き抜けたような歌声だって?
好き勝手に書きましたが、私のように、曲は知ってても聖子ちゃん自身のエピソードをよく知らない(または忘れた)人間には実に楽しい本です。
でね、聖子ちゃん、デビュー時は予想以上に苦労してました。
「O脚だから」と渡辺プロに断られたりね。サンミュージックに預かってもらうも、当初はデビュー未定の二番手だったとか。
一方で、ごくわずかな人たちは彼女の天性のセンスに一発で見惚れたようです。「ビロードがかった声のツヤ」とかね。「夏の嵐のあとに突き抜けた青空のような歌声」とかね。
それが不思議なのです。
デビュー3年目の頃の『瞳はダイヤモンド』あたりになると、「松田聖子って歌うまいよね」なんてことを友達と話した覚えがある。
だけど、『裸足の季節』とか『青い珊瑚礁』の頃はどうだったか。デビュー時は子ども心に「声が奥にこもっているな」と感じた気がする。
当時、歌のうまいアイドルといえば、中森明菜、河合奈保子、岩崎良美あたり。
逆に「松田聖子こそ夏の嵐を突き抜けた、ツヤのようなビロードボイス」みたいに思っているような人は誰一人いなかった。
しょせん、小学生の認識ですがね。
なお、これはイチャモンではなく、本書の記述は松田聖子の魅力を再発見するようで興味深かったわけです。
河合奈保子を断って聖子に集中した作詞家
例えば、デビュー曲「裸足の季節」から「夏の扉」までシングル5枚の作詞を手掛けた三浦徳子。彼女は河合奈保子のデビュー曲「大きな森の小さなお家」の作詞家でもありましたが。
「河合さんにはごめんなさいなんですけど、実は二作目の依頼を断ったんです。私は作詞家になったばかりで、聖子さんの声にインスパイアされ、この人、おもしろいと思ったものですから」
~~石田伸也著『1980年の松田聖子』
河合奈保子の方が上手かったのに!小学生の私ならそう言ったでしょう。
けれど、三浦徳子の聖子への入れ込みは相当なものだったよう。6枚目のシングル『白いパラソル』から作詞家は松本隆に変わっています。相当悔しかったのか、この時、プロデューサーに直訴した話も載っています。
『あなたのせいよ』が『~SAY YO』と聴こえる
『裸足の季節』『青い珊瑚礁』『風は秋色』を手掛けた作曲家・小田裕一郎氏も松田聖子の歌声を絶賛した人の一人ですが、そんな氏のボーカルレッスンは読んでいて「ほおおー!」と思いました。
「バイオリンやフルートには『スラ―』という演奏記号があって、いくつかの音符を弧でくくり、音と音とをなめらかにつなげる。イメージとしてそんな歌い方をやらせてみたんですよ。ひとつひとつの音に対し、両側からすべらせながら歌うという感覚。これができることによって、例えば3作目の『風は秋色』に『あなたのせいよ』って歌詞があるけど、これが『~SAY YO』と洋楽的に聴こえる効果をもたらした」
~~石田伸也著『1980年の松田聖子』
聖子ブランドを作り上げてきた人たちの声は非常に面白いですね。
2年間で5枚もアルバムを出した松田聖子
今の音楽業界では信じがたいことですが、松田聖子はデビューから2年の間にアルバムを5枚もリリースしています。
シングルじゃないですよ、アルバムですよ!
聖子ちゃんはもちろんですが、周囲の製作陣も相当キツかったはず。アレンジが何度も変わった『夏の扉』を始め、60曲以上の編曲を担当してきた大村雅朗が途中で音をあげそうになるエピソードも載っています。
そう。アレンジャーって一回こっきりの買い取りシステムらしい。大村雅朗は『SWEET MEMORIES』の作曲家でもありますが、この時の印税に「作曲家ってこんなにもらえるのか!」と驚いたそう。
『1980年の松田聖子』には聖子ちゃん自身のインタビューはなく、周囲の人間が松田聖子を語るといった構成です。その過程で「アイドルを創る仕事」を同時に知れる。むしろ、個人的にはそっちの方に興味をそそられました。
松田聖子の本なのに、中森明菜にも一章割いてある。唐突な印象でしたが内容は◎。明菜の方がゴシップにも堂々ツッコんでおり、忖度のない気がしたし。
また、当初は聖子よりも格上というか、事務所の期待が大きかった中山圭子のエピソードも良いです。私はこの方を知りませんでした。けれど、不運が重なり消えていった彼女の現在には心和むものがありましたね。
松田聖子に関係した、さまざまな人の人生を知れる本です。
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