ウディ・アレンの映画は50本近くあります。
けれど、ウディ・アレンで1本選べと言えば、『アニー・ホール』(1978)です。
これだけは絶対に外してはならない。これだけは絶対に見なければならない。
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当時実生活でもカップルだったウディ・アレンとダイアン・キートンのラブコメディです。いや、ラブコメディと括ってしまうのは自分の中ではちょっと違う気もするのですが。
今回は個人的人生ベスト1でもある『アニー・ホール』と、同作から派生した『マンハッタン殺人ミステリー』を紹介します。二作に関連する他のウディ・アレン映画も数本。
2017年の「Me Too」運動の流れの中、既に解決したはずの20数年前の性的スキャンダルを揉み返され、映画界から総スカン。「もはや監督生命おしまいか・・・」状態に陥ってしまったウディ・アレン。 みじめん が、新作撮ったり、[…]
生涯ベスト1『アニー・ホール』 自己流のあらすじとネタバレとトリビア
1978年の作品ですからね。
けれど、インタビューなどを読むとアレンはそういうことを気にしないタイプに思えます。
スタンダップコメディ出身で『アニー・ホール』以前は『泥棒野郎』や『ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』みたいなバカ映画ばかり撮ってきたわけです。
ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう
『アニー・ホール』で、もう少し深みのある作品を撮りたいと思った。実際、この作品が監督としての転機になったとアレン自身も語っている。
といっても、小難しい映画ではなく「小難しいインテリ野郎を皮肉る」みたいなティスト。アレンの映画ではお馴染みのそれです。
「ボーイ・ミーツ・ガール」にはなり得ないチビハゲが主人公
一言で言えば、ボーイ・ミーツ・ガールです。出会いと別れの話です。
テーマとしてはあり過ぎですが、この「ボーイ・ミーツ・ガール」の「ボーイ」が恋愛映画の主人公になってはいけないタイプなわけです。
40前半にして既にハゲてるアレンの容姿はさることながら、理屈っぽく神経症めいて早口でコチャコチャ喋る主人公。
女性が寄ってくるはずもない。
励まされる人もかなり、いたのではないでしょうか。だから、当時も大ヒットしたのではあるまいか。もう一度誰かがこんな映画撮ってくれないかと思うわけですが。
「自分を入れるようなクラブの会員にはなりたくない」
恋人にはしたくない主人公の吐く台詞は、しかし、気が利いています。
『アニー・ホール』を見たのは20歳前後の頃ですが、その年齢と相まって劇中台詞をかなりメモった記憶がある。正直、影響受けまくりました。
「自分を会員に入れるようなクラブの会員にはなりたくない(グルーチョ・マルクスの小咄を喩えにして)
「関係と言うのはサメと同じで前進していないと死んでしまう(別れ話で)」
「僕は悲観的な人間だ。世の中には悲惨な人生とみじめな人生がある。悲惨な人生というのはどうしようもない困難を背負っている。たとえば、盲人とか不具者だ。彼らがどんな人生を送るのかが想像できないよ。だから、みじめな人生を選べた僕らはツイてるんだ。自分の人生がみじめなことに感謝しないと」
映画『アニー・ホール』より
かなりメモりましたが、実際に言われたら「何言ってんじゃ、コイツ」って感じかもしれません。
『恋人たちの予感』は『アニー・ホール』の影響大
ちなみに、ネガティブ男が登場するボーイ・ミーツ・ガールものではメグ・ライアン主演のラブコメディ「恋人たちの予感」と構造が似ていなくもない。
ビリー・クリスタルが「本は結末から読む。読み終える前に死ぬと困るから」とのたまうような男を演じていた。
脚本のノーラ・エフロンも生粋のニューヨーカーであるし、「アニーホール」は当然頭にあったのではあるまいか。調べたら、なんのことない2人は友人同士でした。アレンの『重罪と軽罪』『夫たち、妻たち』にノーラ・エフロンもちょこっと出演している模様(パーティの出席者とか)。
ダイアン・キートンのぼんやり演技
ところで、アニー・ホールって人の名前です。演じるはダイアン・キートン。
ウディ・アレンはそもそもダイアン・キートンをイメージしてこの役を書いた。ちなみにダイアン・キートンの本名はダイアン・ホールだそうです。
ネクタイしめたマニッシュな感じのコーディネートですね。
私が最初に見た時は、時代(90年代前半)のせいなのか、単に自分の趣味の問題なのか、正直「ありえないでしょ」と思ったわけですがね。
今、見ると悪くない。ただし、ボディバランスのよいダイアン・キートンがやるからいいのであって普通の人がやったらすごくビンボー臭くなりそうです。
ともあれ、彼女がすごく可愛い。
会話シーンで機転の利いた返しができない時、心の声が聞こえるわけです。
「なんだか負けそう。がんばらなくっちゃ!」って。その言い方がとても可愛い。
こんなエピソードもあります。
――ダイアン・キートンは“ぼんやり演技”とでも名付けたいものをここで見せています。守りの演技というか、変に周りに遠慮している感じがします。これは彼女の立場に立って考えた結果ですか?
アレン いや、あれが彼女なんだ。ダイアンは朝、目覚めるとあやまる。それが彼女の性格なんだ。
~~『ウディ・オン・アレン』
『アニー・ホール』はフェリーニに出演を断られていた?
アレンの若い時の作品らしく実験的な演出も多いです。
心の中の声なんて、今はまずやりません。「劇中人物が観客に語りかける」とか「劇中人物なのに、観客と一緒に回想シーンを見ている」とか「画面に誰も映ってない時がある」なんて演出があったり。
誰もが一度は妄想する「そんなバカな!」ってシーンもある。
主人公がある男と口論になるんですが、そいつが社会学者のマーシャル・マクルーハンの言葉を間違って引用するわけです。
その時、看板の横から突然本物のマクルーハンが現れて「君は間違っている」とイヤな男を懲らしめてくれるとか。
最初に頼んだのは映画監督のフェデリコ・フェリーニだったとか。「それだけのためだけにイタリアからアメリカまで行くのはちょっと・・・」と断られたそうな。そりゃそうだわね。
『マンハッタン殺人ミステリー』の自己流あらすじとネタバレとトリビア
『アニー・ホール』の元ネタが『マンハッタン殺人ミステリー』に
ところで、『アニー・ホール』って最初は殺人事件ものだったらしいです。
どうにも想像しがたいですが、その元ネタを復活させたのが、93年の『マンハッタン殺人ミステリー』。
主演コンビもウディ・アレンとダイアン・キートン。本作では暴走するのがダイアン・キートンで、受け流すのがアレンの方。
実は、彼女の役は当初アレンと暮らしていたミア・ファローがやるはずだった。
が、アレンの不貞がバレ、泥沼親権裁判の真っ最中だったため(ある意味、2020年になっても泥沼は続いている)ファロー降板。
盟友であるダイアン・キートン(といっても、元カノではある)が二つ返事でOKしたと。
ダイアン・キートン版を見た後では、彼女以外には考えられなくなるわけですがね。
アレンの「器用だからこそできる不器用演技」に爆笑
アレンとダイアン・キートン夫妻のアパートメントで、お隣の奥さんが心臓発作で亡くなるわけです。
「昨日までピンピンしてたのに」「心臓が悪いなんて聞いたことない!」「なんか怪しくね?」みたいな最初は井戸端会議レベルだった。それが、次第に妻(ダイアン・キートン)がのめり込んで、勝手にお隣さんに侵入して「奥さまは探偵」状態に!
で、殺人の動かぬ証拠を掴んでしまったーーみたいな話です。
バカバカしいですが、大の大人が集まって推理を展開するとか、犯罪暴きの作戦を練るとか、夏休み的なワクワク感すらある。
後半部、知人の演出家を巻き込んで、犯人の愛人(女優)にオーディションを受けさせるんですね。
「奥さんの死体を見た」とかテキトーなセリフを言わせ、それをテープでつなぎ合わせて犯人に電話する。このシーンは爆笑ものです。
素人捜査で不法侵入するたびに調度品を落として割るウディ・アレンとか、つなぎ合わせたテープぐちゃぐちゃするウディ・アレンとかお馴染みの「器用だからこそできる不器用演技」も堪能できます。
ウディ・アレンは『マンハッタン殺人ミステリー』を不快と切り捨てた?
さて、シリアスな群像劇からコメディ、サスペンスと幅広いウディ・アレン。
実は、『マンハッタン殺人ミステリー』は本人いわく「すごく不快だった。道楽のためだけに作った作品だ」みたいなことを言ってもいます。
これは彼特有の言い回しなのかもしれません。大ヒットした『マンハッタン』に対してもこんなことを言っている。
完成した時は自分の映画がほんとにイヤになる。『マンハッタン』の場合はあまりに失望が大きかったので、封切るのがイヤになった。ユナイトに公開しないように頼みたかった。もし、聞き入れてもらえればノーギャラでかわりに1本撮るつもりだった。
~~『ウディ・オン・アレン』より
ウディ・アレンらしいといえばウディ・アレンらしいとも言える。
といっても、スクリーンを通した彼しか知らないわけですが、映画の登場人物が言いそうなことでもある。でもって、彼は『マンハッタン殺人ミステリー』について、こんなことも言っています。
こういうタイプの映画はそんなに独創的な仕事ではない。でも、たいしたことのない内容でも、作る方にとっては楽しい。そう、デザートを食べるような感覚だよ。主食にはならないけどね。最終的にはこの仕事ができて本当に良かったと思う。これはこれなりに成功作だ。
~~『ウディ・オン・アレン』より
さぁ、どうでしょうか。
でも、こうやって微妙に表現が変わり、最後には言ってることが逆になるというのはよくあることです。
取材する方としては困惑するわけですが、多分、アレンの心情的にはどちらも本当なんだと思います。
ウディ・アレン映画をタダで観たいならU-NEXTへ
まぁ、タダで観たいですよね。できることなら。
最近はDVDレンタルは面倒くさく、大方の人間が動画配信頼りだと思います。あとはわざわざレンタルするなら購入するかってタイプに分かれる。
私は前者なので、Amazonプライムで『アニー・ホール』が配信されておらず、軽いショックを受けました。
『マンハッタン殺人ミステリー』はありますが追加で199円払わなきゃなんない。
他に『アニー・ホール』のある動画配信サービスはないものか?と探したところ。
回し者みたいですが、そうではないですよ。
ウディ・アレン作品って動画配信がそもそも少ない。
動画配信サービスでウディ・アレン作品が一番多いのがU-NEXTです。
コロナ期間中、31日間無料見放題(※一部作品除く)が嬉しくて、U-NEXTに登録しました。 少し前まで動画配信サービスはAmazonプライムで十分だと思っていたわけです。もとは映画ライターだった自分ですが、既に一生分の映画は見たからも[…]
『アニー・ホール』や『マンハッタン殺人ミステリー』はもちろん、『マンハッタン』にしても、アレン自身が一番好きだという『カイロの紫のバラ』もハッピーてんこ盛りの『世界中がアイラブユー』もケイト・ブランシェットがオスカー取った『ブルージャスミン』もちゃんとある。
これらの旧作(※新作は除く。逆に高めな気もする)が新規加入から1か月間は無料で観られる、と。
現在、絶賛アレン週間なわけです。
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