2017年の「Me Too」運動の流れの中、既に解決したはずの20数年前の性的スキャンダルを揉み返され、映画界から総スカン。「もはや監督生命おしまいか・・・」状態に陥ってしまったウディ・アレン。
騒動の真偽はともあれ、ファンとしてはほっとしたのが本音。だって、彼はもう85歳とかですから。汚名のうちに死んでしまってもおかしくない。
で、久々に2002年製作の『さよなら、さよならハリウッド』を見返すと、映画界から総スカン、「監督生命、これまでか」みたいな役を演じていました。
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なんのフラグ? いやいや、非常にウディ・アレン映画らしいプロットではあるんですが。
今回はファンのくせしてアレンの疑惑を混ぜっ返しつつ、苦い笑いとハッピーをもたらす『さよなら、さよならハリウッド』について書いていきたいと思います。
「Me Too」の流れで巨匠からクソ監督に変わったウディ・アレン
元恋人というか、長く一緒に暮らしていたミア・ファローの養女に性的虐待した疑惑ですね。
1992年に7歳の養女の股を触ったでしょ、みたいな。
実はその当時、ミア・ファローとウディ・アレンは泥沼状態でした。
ウディはミアのたくさんの養子とともに暮らしていたわけですが、その中の一人と恋人関係になってしまった!
相手は渦中の7歳の子じゃないですよ。
当時は20歳前半、中国系のスン・イー・プレヴィン。で、後に結婚してます。今も仲良し。
ですね。ですね。
ひどい、ひどい、ひどすぎると思います。そんな目に遭っていいわけがない。もちろん、怒り心頭でミア・ファローは自伝にも書きました。当時、私も買った記憶がある。
その泥沼の中、ミア・ファローは別の養子がウディから性的虐待を受けていたと訴えた。
警察が8か月近く捜査を続けたものの、性的虐待の事実はなかったということで決着。
したはずが、2014年、養女のディラン・ファローが大人になってウディ・アレンを再度糾弾。この時は「今さら20年前のこと言われても……」みたいな世間の反応だったんですが。
2017年、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラに端を発した「Me Too」運動で風向きが変わります。
この時、映画界の大物たちが次々と過去のエロ悪事を暴かれ去っていくことになった。あんなに人気者だったケビン・スペイシ―も消えた。
Amazonで俳優検索しても作品数は異様に少ない。オスカー取った『アメリカン・ビューティ』ですら出て来ない。ケビン・ベーコンならたくさん出てくるのにね。
ウディ・アレンも無傷でいられるわけはなく。
マイケル・ケインとかミラ・ソルヴィーノとかレベッカ・ホールとかコリン・ファースとかね。私の記憶ではウディ・アレンは「どんな俳優も仕事したがる映画監督ナンバー1」だったはずなのに。
ウディ・アレンの『マジック・イン・ムーンライト』(2015)で主演だったコリン・ファースは少し可哀想でね。
実は、ハーヴェイ・ワインスタインとも仕事していてオスカーまで取っている。『英国王のスピーチ』(2011)でね。
アレンのニュースを聞いて、「またか!」とがっくりも来たことでしょう。
で、話を戻しますと、養女虐待疑惑により、18年に全米公開予定だった『ア・レイニー・デイ・イン・ニューヨーク(原題)』がお蔵入りになりました。エル・ファニングが出ているやつ。ティモシー・シャラメやセレーナ・ゴメスらも怒って、ギャラを寄付したり。
本作含む4本の製作出資をする予定だったAmazonもその契約を反故にしました。新作の予定も宙ぶらりん。
映画界で愛されていたはずの売れっ子監督は一気に落ち目になりました。
『さよなら、さよならハリウッド』あらすじ&ネタバレ&妄想的トリビア
「映画を撮りたい。チャンスが欲しいよ」
実は20年ほど前、アレンは落ち目の映画監督を主役にした作品を撮っていました。
本作ではアレン自身が旬の過ぎた映画監督を演じています。いつものように、神経症的にベラベラまくし立てる主人公はこんなセリフも吐いている。
「落ち目になると何事も裏目に出る。映画を撮りたい。チャンスが欲しいよ」
予言的なセリフは他にもありまして。
台詞に「Me Too」本家のワインスタインが……
アレン演じる主人公は妻に浮気されて離婚しています。
で、今は微妙なルックスの売れない女優と暮らしている。
その彼女に「一緒に撮影来てよ」みたいなことを言うんだけども、「舞台があるから」とすげなく断られてしまう。
「舞台っても、最後にちょっと出るだけだよね?」のツッコミにも彼女はめげない。
「それをスピルバーグか、ハーヴェイ・ワインスタインが見に来たら?」
そう、ことの発端です。
アシュレイ・ジャッドやローズ・マッゴーワンやアンジェリーナ・ジョリーやグウィネス・パルトローほか錚々たるハリウッド女優が彼のセクハラ行為を糾弾している。下記にもちょっと書きましたが。
【新型コロナ・映画4選】当時はコケた『コンテイジョン』が再注目。Gパルトロウの怪演もすごいぞ!
そのワインスタインはアカデミー協会を追放され、今年の2月には有罪判決が出た。で、3月には新型コロナに罹患しました。いい気味であるものの、踏んだり蹴ったり。
プロデュース側の人間ですから日本人には彼のスゴさはどうも伝わりづらいわけですが、スピルバーグと並列されるほど影響力のある映画人だったってことです。
ウディ・アレンと『ガラスの仮面』と岩井俊二?
『さよなら、さよならハリウッド』のあらすじの続き。
ある時、落ち目の主人公のもとに大作映画の話が舞い込むわけです。一緒に仕事をするのは「元妻&妻を寝取った男」。
というのも、妻(ティア・レオーニ)はプロデューサーで、浮気相手は製作会社の重役だった。
出資する製作会社の人間ですからね。とても、イヤな感じです。
自分がミア・ファローだったら別の意味で憤慨しそうな人物相関図です。
ともあれ、エージェントが「大丈夫だ、ビジネスと割り切れ」とニコニコ言って、嫌々ながら引き受けるも、最初から難航の予感大なわけです。
スタッフは常に怒っている中国人カメラマンだったり、「エンパイアビルを20階までセットで作れ!」みたいなこと言う美術監督だったり、オーディションに来る俳優もヘッポコ感満載だったり。
そうした中、クランクイン前日、主人公は神経症の発作で突然失明してしまう!
バレたら降板確実!いかにバレないように映画を撮るか?が物語の大部分を占めるわけです。
ガラスの仮面 45 ふたりの阿古夜 4 (花とゆめCOMICS)
ありましたね。
女優生命を懸けた『紅天女』のオーディションを前に失明ってのが。
彼女の場合、神経症ではないものの、周囲にバレないように「見えているフリ」特訓をするわけです。タオルやスプーンを床に落とし「落ちた音で物体を当てる」特訓とか、ろうそくの火に囲まれながら「熱いという感覚を頼りに歩く」特訓とか。
視覚以外の感覚を鍛えて「見えている」フリをする、もうスポ根の域です。
もちろん、ウディはそんなことやりませんよ。
『ガラスの仮面』を読んでいたら、パロディにした可能性はありますがね。
ウディの窮地を知ったエージェントは瞬間焦るもまたしても「大丈夫だ」と。
「もともと変人だと思われてるから怪しまれることはない」とかニコニコ言って撮影を無理やり決行。このエージェントのテキトーぶりが劇中で光ってます。
以前、ウディ・アレンも言ってましたよ。
みんなが監督に質問を浴びせかける。俳優も、セット・デザイナーも、衣裳係も撮影スタッフも、みんなね。それが延々と続くんだ。
~~スティーグ・ビョークマン編著「ウディ・オン・アレン」より
多分、本編でそのシチュエーションを使いたかったのだと思います。
時計を持った小道具係が「監督、どっちがいいですか?」みたいなことを聞いてくる。どっちも何も、ウディには小道具係が何を持っているかもわからないから返答に窮する。
2階のセットからやおら落下したりね。ソファに座るつもりが恋敵の背中に座っちゃったりね。
ウディ・アレンは、そこそこまっとうなシチュエーションの中に「無理やりな流れ」を持ってきたとしても「逆に面白い」となる監督でもある。もともとスタンダップコメディから始まった人ですからね。
作風は異なるも岩井俊二の『花とアリス』を見た時も似た感覚を覚えました。
好きな男子が頭を打ったのをいいことに「あなたは私と付き合ってる。記憶喪失になって忘れてるだけ」と強引に交際するんですよ。鈴木杏と蒼井優がグルになってね。
2人が可愛いから許されるってこともある。だけど、「無理やり感」を観客と共有できるスキルがあるって、監督としては非常に強いわけでね。
劇中では息子と和解、実生活では息子とボロボロ
『さよなら、さよならハリウッド』では重要な意味を持つのが息子です。
ウディ・アレン映画には登場人物の「親バカ設定」はほぼ皆無。子どもが出てくること自体がまれ。本作では珍しいウディの「父ちゃん」役も見られるわけです。断絶していた鼻ピアスの息子に「お前を愛してる」みたいなことを言う。稀少です。
アレン自身、この場面について「和解することで主人公は自分を取り戻す。息子の役は非常に意味がある存在なんだ」と語っています。
こうやって、実生活と映画を混ぜこぜに語られることほど、監督にとってイヤなことはないでしょう。アレンはこんなことを語っています。
たいていの人はどうも創造という行為がどんなものかつかめないでいるようだ。僕の作る映画はみんな自伝だと思うらしい。そう思う人を非難する気はないが何も分かってないなと感じることがある。みんなは映画のアイデアや物語が実生活を下敷きにしていると勘違いしている。
~~スティーグ・ビョークマン編著「ウディ・オン・アレン」より
Woody Allen on Woody Allen: In Conversation With Stig Bjorkman
そうと認めつつ、ゴシップ話を続けますと、冒頭のアレンの疑惑を息子のローナン・ファローは「姉(養女)の言い分の方を信じる」と告発している。で、実の息子だと言われていたローナンは「ミア・ファローが(アレンの前に付き合っていた)フランク・シナトラとの子じゃないか疑惑」も生じている。
映画では前妻とも息子とも最後に関係性を取り戻しますが、実生活はこじれにこじれてどうにも難しそうなんだよなぁ。
虐待疑惑乗り越え、ウディ・アレンは新作に入った模様
ところで、リアルの監督業については『さよなら、さよならハリウッド』の結末に近い様相になってきています。
『ア・レイニー・デイ・イン・ニューヨーク(原題)』はヨーロッパ各国で公開されました。スペインの製作会社が名乗りを上げ、19年夏には新作の撮影に入ったとの情報もある。裁判沙汰になっていたAmazonとも和解。
かつ、20年4月には自伝を出版しました。同書にはスキャンダルの真相(言い訳?)部分もあって、賛否両論らしいですが、85歳になっても本人は元気。
これまた30年近く前のインタビューですが、興味深いやり取りがあったのでここに引用。
――ロケ現場であなたの仕事ぶりを見ていて驚いたのは、ロケ現場の雰囲気がすごく陽気だったことです。九二年の八月から現在まで、私生活でトラブルに巻き込まれたことを考えると、あんな雰囲気で撮影ができるなんてすごいと思います。仕事と私生活をはっきり分けることができるんですか?
アレン 本当に不思議だね。君と知り合ってインタビューを続けている時も、トラブルは続行中だ。でも、仕事は仕事と割り切れる。(中略)映画の仕事と並行して、法律上の手続きもした。でも、どうしようもなく大変ではなかった。
~~スティーグ・ビョークマン編著「ウディ・オン・アレン」より
ここでいう「ロケ現場」とは『マンハッタン殺人ミステリー』(1993)のこと。
ここでいう「私生活でのトラブル」とはミア・ファローと泥沼離婚し、真剣争いをし、養女の虐待疑惑で警察に取り調べを受けたこと。
ちなみに、同作は当初ミア・ファロー主演の予定でしたが、このゴタゴタのため、アレンの盟友であるダイアン・キートンが代役を務めることになりました。
私も好きです。
同作含め、おすすめのウディ・アレン映画についてはまた書きます。
なお、これらの映画をタダで見る方法。
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