少し前に本を出そうとしてとん挫しました。
いまいましい記憶なので今日はその失敗談ではなく。
その際に、下落っぷりを目の当たりにした印税についてのお話です。
「やはりか。出版不況、削られるのは単行本から」と合点したという。
【私が知ってるライターのギャラ変遷】大手雑誌で原稿料が2分の1になった恐怖をどう思う?
さて。本の印税。
分野や出版社にもよりますが、10年前くらいは相場10%くらいの感触だったわけです。
知人のライターが「12%じゃないとやらん!」くらいにゴネてた記憶があるので、少なくとも「10%=イイネ!」的構図はなかったと思われる。
それが今ではどうか。
よくて印税8%。「10%になりませんか?」と交渉するのもおこがましい雰囲気。
気がつけば「印税10%=イイネ!」時代に突入していた、と。
さらにいえば、よくて8%ということは下には下があるということ。
奴隷案件の多いクラウドソーシングでさえ、「まだマシやんか!」と思うような現実があるのが本の世界なのです。
初版5000部なら、かなりスゴイです
かつてノンフィクション本を出版していた知人ライターの印税は軒並み10%でした。
あ、キャリアはあれど有名なライターばかりではないです。
冒頭で書いたように「12%欲しいから」と別の出版社に売り込み直した人もいた。そうして、それで通っていた。
大手もありましたが、中堅どころも多かった。
ただ、専門書であったり、文芸書ではない。後述しますが、これらの本は発行部数が期待できず、印税も低くなりがちです。
ちなみに、今も昔も初版部数は5000部あれば「結構スゴイ!」感じです。
たいがいは3000~4000部刷れば、まぁ、御の字みたいな。
本の値段で差が出ます。
例えば、1冊1500円とする。
1500×0.1×3000=45万円
重版でもかからない限り、初版3000部だと労力の方が大きそうです。
なお、本の文字数はバラバラですが、単行本1冊書くには最低10万字くらいの文字量は欲しい。
クラウドソーシングに慣れたあなたは、ここで「最低文字数なら1文字4.5円か。ふむふむ」なんて計算をしたくなるかもしれません。いやいや、本を出したいなら文字数なんか気にしちゃダメですよ!!
印税8%もらえれば御の字 「10%=イイね」時代に突入か?
ともあれ、印税10%は過去の話です。今や主流は8%。
すでに20冊近く本を出している学生時代の先輩がいます。ベストセラーとまでいかずとも、いくつかのスマッシュヒットを出している。
そんな彼女に8%問題を聞くと「相場は下がってきた。だけど、10%で交渉してる」と少し怒って言ってましたっけ。
「そもそも発行部数も減っているし、書き下ろしではやっていけない。雑誌で連載したものを加筆修正して単行本化。まぁ、それでなんとか」
彼女の「なんとか」はかなり恵まれた立ち位置の「なんとか」です。
めちゃくちゃ努力した人ではあるけれど、私やあなたはそうはいかない。書き下ろしで勝負するしかないわけです。
しかしながら、実績のない者の、出版が決まったとして、提示されるのは印税8%がせいぜい。その上、あなたはこう言われるのです。
「初版3000部は厳しいな。2000部でどう?」
となると、ですね。
1500×0.08×2000=24万円
だから、文字数で考えるクセはやめなさいってば。
印税3% ヘタすりゃ5万円を切る場合もある
ただし、印税8%はまだいい方です。
弱小出版社になると、7%とか5%、いやいや3%なんて場合もある。
聞いたところによるとコンピューター関連の書籍は印税3%なんて場合もあるらしい。
さらに「在庫が怖いから初版は1000部でいい?」なんて言われてみたり。
そうなったら、どういうことが起こるのか?
1500円×0.03×1000=4万5000円
マジですか!?
いや、これは人間が営む仕事じゃないでしょう。
10万字本なら1文字0.45円になってしまいました。
私は文字数ベースの仕事は受けたことがないんですけどね。
補足すると、部数の刷れない専門書は出版社の赤字対策のため、値段が高くなる傾向にあります。本一冊で2850円するとかね。
となると、どうなるか?
2850円×0.03×1000=8万5550円
ヤッタ!4万以上アップ!
いち消費者である自分はこの本を見て「うわ、たっか!!」と思うわけですが、そこには、やむにやまれぬ企業努力(努力なのか?)があるのです。
そうして、こういう本に限って結構な厚さがあったりする。まず、10万字ではすまない。コンピューター関連書物ってどう考えてもその倍くらいありそうな本はザラ。
事情を知るにつけ、「貧乏に負けない作者の情熱」にほだされそうになってくる。
となると、2850円を本を見てわれわれが思うべきは「うわ、たっか!!」ではない。
「その情熱に免じ、今すぐレジに向かおう!」だと思うのです。
実売部数での契約なら印税数千円代なんてことも
印税に関し、もう一つ重要なことがあります。
実売部数か、発行部数か。
どちらで契約するかで収益はまったく違ってくる。
ここまでの例は発行部数での換算です。
3000部発行したら本が売れようが売れまいが、初版の印税は変わらないわけです。
しかし、実売部数の場合。
そうなのです。
先の3%印税の本が仮に50冊程度しか売れなかったとすると……、4000円ちょっとにしかならない。
もちろん、一般書かつ中堅以上の出版社なら、実売部数での提案はほとんどないはず……ですが。
森博嗣の『作家の収支』と渡辺浩弐の印税2%
もっとも相場なき世界なんじゃないですか?
一部の一部の一部のベストセラー作家なら標準以上はもらっているでしょうが。
この辺り、森博嗣の『作家の収支』が興味深いです。
森博嗣は日本でもっとも多作の小説家の一人です。
稼いだ額は19年間でなんと15億!!
本書にあるのはその収支。印税からドラマ化した際の収益やら講演料やらよくぞここまで書いてくれたと感心しきり。
ただ、作家のスタンダードかというと、やはり特殊なケースではあると思います。
幻冬舎の本って数字バラしてもいいの? じゃ。
_人人人人人人人人人人人人人_
> この本、印税2%でした <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄ https://t.co/vSQXBebnhW— 渡辺浩弐 (@kozysan) May 16, 2019
奇しくも『作家の収支』と幻冬舎つながりですが、にわかには信じがたいほどの印税です。
作家であり、中野ブロードウェイでカフェも運営する、渡辺浩弐。
ちなみに、ご存知の方もいるでしょうが、彼が印税を暴露したいきさつがある。
幻冬舎の見城誠が、津原泰水の『ヒッキーヒッキーシェイク』を急きょ出版中止にしたんですね。
理由は……幻冬舎出版の百田尚樹本をクサされたから。
これだけでも炎上ものですが、ほぼ怒りに任せて作家の実売部数をバラした見城氏。「津原さんはこんだけ売れてないから出版できないの、しゃあないでしょ」ってね。
当然のことながら、またまた大炎上したわけで、そのさ中に投下されたのが「印税2%」Twitterだった、と。
この流れの中で「太田出版は初版印税0%」なんて暴露をした漫画家もいました。え? ゼロって? ゼロって0ってことだよね・・・。
※『ヒッキーヒッキーシェイク』はハヤカワ文庫に救われました。
初版印税0%の出版社に気をつけろ!
実はあります。
雑誌に掲載されていたりすると原稿料が支払われている場合もある。でも、書下ろしならその限りではない。
知人のライターは「初版は印税なし」「重版になったら印税7%」みたいな契約で本を出しました。
ジャンルは……陰謀もの、というべきか。トンデモ系というべきか。
太田出版よりもさらに、さらに、小さな出版社だったんですけどね。
『コロナウィルスは宇宙人からのメッセージ』とか『トランプは邪馬台国の使者だった!』とか、いや、そんな本はありませんよ、たぶん。そういう、トンデモ系を取り扱っている出版社だったってことです。
そこはまったく頭になかったんですけど、いやいや、確かに失礼でした。
ごめんね、わたしの知人。
だけどね、重版なんかされないわけです。陰謀系だからというのではなく、本というもの、まず、重版なんかされません。出版の際にはそう考えていた方が精神的に健康です。
全体の1割と聞いたことがあります。
「10冊に1冊か!イケそうじゃん」と私やあなたなら思うかもしれませんが、実際は出版社や編集者で偏っている。
重版率100%(!)のヒーロー文庫みたいなものもあれば、重版率8割のスゴ腕編集者がいたりもする。
その逆で1割の打率もない出版社だってある。
その発想は確かに間違っていません。
「でも、どうやったら、スゴ腕編集者に頼めるのか?」
私にはわかりかねますが、ほぼスルーされる覚悟をもってチャレンジする価値はあるかと思います。
出版コンテストと見せかけた自費出版に注意
注意喚起ついでにもう一つ。
世の中には、あやしい出版コンクールもあります。「優秀賞受賞者の作品を商業出版!」みたいなね。
これまた、知人が引っかかりました。
「賞は逃したけど、出版社から連絡があってさ。『可能性のある方だと感じました。出版しないのは惜しい作品です。うちで手直しすれば必ず良くなりますから一緒にがんばりませんか?』って。これ、すごくない?」
すごいどころか。
そういう商法です。
あるいは共同出版の場合もある。
「たいへん優れた作品なので出版社が制作費を半分持ちます」ともったいぶって提案され、あとの半分はあなたが持つ羽目になるという。
本当に出版社は制作費の半分を持っているのかって? 私にはわかりかねます。
自費出版からベストセラーになった本もある
とはいえ、自費出版がすべて悪とはいいません。
印税の話ばかりしてきましたが、収益性は度外視して本を営業ツールに使いたい場合もあることでしょう。特に経営者やコンサルは本があるだけで信用度は上乗せされますから。ライターしかり。クサっても本ってヤツです。
これまたピンキリです。
自分が昔、ゴーストライターをやっていた自費出版の会社は500部で300万だったような。大手出版社ならもっと高いかもしれない。
一方、今はネットなんかに格安の自費出版も溢れています。刷り部数も少なめ、30万くらいからできたりね。
また、自費出版から商業出版の声がかかり、話題作となった本もあるにはある。
下剋上受験[文庫版] ―両親は中卒 それでも娘は最難関中学を目指した!
このお父さんは自費出版分の300部をブログか何かですべて売り切り、そうこうするうち産経新聞出版から声が掛かった。
個人の体験談の中学受験本が文庫化されるなんて聞いたことないですから、ホントにすばらしい下剋上っぷりです。
そのほかベストセラーになった『ペコロス~』も『佐賀のがばいばあちゃん』も最初は自費出版からでした。
急にシビアになりましたね。
「出版することが目的」なら商業出版にこだわる必要はないってことです。
逆に、収益が目的なら?
電子出版の方がいい場合もある。
Kindle出版あたりだと登録まで自分でやってしまえば製作費は掛かりませんね。
やったことのある人によると、そうむつかしくもないらしい。
なにより印税が高いです。
35%か70%かって紙ではまずありえないロイヤリティ。
電子書籍が売れれば、そこから商業出版しませんか?と声がかかる可能性もある。
何度も繰り返さなくとも。
ただね。甘い夢でもみないと本一冊分の原稿なんて書けませんて。私もそうだったけれど。
史上最低の原稿料を覚悟しつつ、今日も甘い夢を見る。
今回のブログ、げんなりするようなネタの羅列でモチベーションがダダ下がってしまったかもしれませんけど、書き手のみなさん!
がんばりましょうね。