芸能人史上、窪塚洋介ほどイメージの激変したタレントはいません。いや、正確に言えば激変後も活躍を続けている人って他にいません。
今の若人は知らないでしょ?
窪塚洋介が今の佐藤健とか横浜流星並みか、それ以上の扱いを受けていた時代を。
MEN’S NON-NO (メンズノンノ) 2001年 09月号 No.184 [雑誌]
放流
よりによって、こんな写真を表紙に選ばなくとも・・・。
ホントいうと、当時の窪塚くんを知る身としては、今の窪塚洋介を見るたび軽いショックを受けるわけです。
取材する立場から言えば、今の彼はめちゃくちゃ面白い。舞台挨拶なんかでも「何やらかすか、わかんない印象」がありますし。
だけど、そんな彼が「ひたすら好青年街道」を突っ走っていた時期があったことも知っている。
ついでに言えば、人気絶頂期に彼を映画に起用したり、企画を考えていた知人も周囲にいた。
なので、一方的に親近感を抱いていた時期もあったわけで。
今日は自分の記憶を掘り返しつつ、窪塚洋介の変遷をおススメ映画から辿ってみたいと思います。
コロナで疲弊したあなたにはとりわけ見て欲しい作品もある。「ありえないほど美しかった窪塚くん」に絶対に癒されるはず。
窪塚洋介が一番カッコよかった『GO』は青春映画の金字塔
最初のブレイクは『GTO』の生徒役だった
窪塚洋介が一般に注目されたのはテレビドラマの反町隆史主演『GTO』(1998)の生徒役でした。反町が松嶋菜々子と結婚するきっかけになったドラマで、窪塚も芸能人として飛躍のチャンスをつかんだという。
で、窪塚のまとめサイトなんか見るとですね。いきなり経歴が飛んでいたりするわけです。
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2004年に自宅マンションの9階から飛び降り事故。
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俳優業を続ける傍ら、レゲエDJ(「卍LINE」名義)やカメラマンとしての活動も展開。
ドラマ『GTO』の後に飛び降りとか、飛び過ぎです。
窪塚洋介の「誰がなんといっても人気者時代」がすっぽり抜けているなんて!!
そういうことです。
『GTO』の後には、広末涼子主演、野島伸司脚本『リップスティック』(1999)やら長瀬智也主演、宮藤官九郎脚本『池袋ウエストゲートパーク』(2000)などのテレビドラマで知名度上げていきます。
で、もう明らかに誰が何といっても「日本で絶対的一番人気の若手俳優」みたいになったのは行定勲監督の映画『GO』(2001)の頃でしょうか。
ついでに言えば、クドカンが人気の若手脚本家になっていた時期とも被りますね。『池袋ウエストゲートパーク』に続き、窪塚洋介主演作『GO』『ピンポン』で脚本書いてますからね。
韓流ブーム前の在日コリアンの現実を演じて
『GO』は簡単に言えば、在日コリアン男子の青春映画です。
原作は直木賞を受賞した同名小説で、著者いわく「ヒロインは柴崎コウをイメージして書いた」。実際に柴崎コウがその役を演じ、彼女もここから売れっ子街道まっしぐらへ。
けれど、あて書きだったわけではない窪塚の方があて書き感MAX。
柴崎コウもいいのだけど「絶対に絶対に、彼女でなくては!」というほどではない。
だけど、窪塚の役は絶対に窪塚以外には考えられないです。
それくらいハマっています。めちゃくちゃカッコいいし、モテそう。勢いもあるのに鬱屈したものを抱えた感じとか、ほだされる女子は多かったはず。
やたら攻撃的なバスケットボールの試合シーンを見て、柴崎コウが「杉原(窪塚の役名)に睨まれたい♡」ってなるのもわかる。学校の門をひょいと片手で飛び越えるシーンは中年になっても惚れ惚れしますよ。
この作品が書かれた当時、在日コリアンは今とはまた違った社会的葛藤を抱えていました。韓流ブームが来る直前くらいの時期(ヨン様の『冬のソナタ』が2003年)で、コリアンの文化や芸能のスゴさすら、ほぼ認知されていなかった頃。
若い日本人にとって韓国は隣国というより、ただただ異質な存在でした。
劇中で、「実はオレ、在日」と窪塚に告白された柴咲コウが「ごめん。怖い」と去っていったのも理解できるような時代だった。
韓流好きな今の若人が見た時、このシーンをどう思うかな? ちょっと知りたいところです。
『GO』は民族色の強い映画ではありません。シンプルに青春映画の傑作です。だけど、窪塚のそこはかとなく「排除されてる」感情表現が実に上手い。それもダダ洩れのネガティブ感情じゃなくてね。漏れ方も控えめで上品なわけです。
こう言ったら何ですが、彼は決して演技力の高い俳優とはいえなかった。この時は演技というより素に近い感じだったんじゃないかとも。
「好青年」と呼ばれていた時代の、自分への葛藤みたいなものがいい案配でにじみ出ていたのが本作だったんじゃないかと、勝手に邪推しています。
『GO』の舞台挨拶で口ごもっていた窪塚洋介
窪塚が人気絶頂だった頃、私は映画専門のライターでした。
窪塚洋介に直接インタビューすることはなかったのですが、『GO』の舞台挨拶には行きました。その時の客席からの黄色い声ときや。
舞台挨拶ですから、他に登壇者もいる。だけどその場にいる全員が全員窪塚くんLOVE♡みたいな会場の空気感。彼女たちは今の彼をどう思っているのか?
清廉で真っ直ぐで好青年。聞いていた通りの印象です。
インタビューしたことのある知人から漏れ聞くに、窪塚くんは売れっ子なのに「気遣いができる」と評判でした(最近、横浜流星でも似た記事を見かけましたが)。
一方、しゃべれる印象は皆無でした。覚えているのが、彼が舞台挨拶で口ごもっていたこと。
舞台挨拶というのは、基本的にみんなつまんないことしか言わないわけですよ。公式回答というのか。
今の窪塚洋介は「共演者からひどい差別を受けた(マーティン・スコセッシ監督『沈黙』での舞台挨拶)」なんて話を冗談抜きで語っちゃうビビッドさはありますが、普通はそんなこと言わない。特に日本の俳優は言いません。
私が見た『GO』の舞台挨拶も右に倣え。
なんだかんだ、窪塚はまだ二十歳そこそこでしたし、気の利いたことなんて言えるわけがない。
劇中台詞の「広い世界を見ろ」に絡めて、割と正論っぽいことを語った気がしますが、優等生っぽ過ぎて記事にするのもつまんなかった覚えしかない。
その正論の締めで、窪塚は言葉につまっちゃったわけですよ。「だから……えー……」みたいなね。とても可愛い男の子でした。
周りは窪塚LOVE、全方位、彼の味方。自分の記憶が定かであれば、見かねた観客の誰かが「……GO!」と言った。それを受けた窪塚も不器用そうにこぶしを拳げて「……GO!」と言った。で、会場混然一体として皆で「GO!」と言った。
以上シメ、みたいな。
多分、今の窪塚が見てもそう感じることでしょう。
でもね、あの時はそれで良かったんです。誰も窪塚が面白いこと言うことなんて期待していなかった。
評判通りの爽やかな好青年であればよかったのです。
YouTubeで「窪塚洋介 GO 舞台挨拶」で検索するとアップされる動画があるんですが、そこではね、若干政治色の強い話もしています(私が取材に行った舞台挨拶ではない)。2001年ですからアメリカの同時多発テロ事件の後なのかな。「若い気負い」みたいなのはあるものの、現在の発言の片りんは感じられないでもない。
今となってはヘタさも眩しい。窪塚洋介『ランドリー』は透明感しかない
さて、イケメン時代の窪塚洋介代表作をもう一つ。
軽い知的障がいを負った青年のラブストーリー。相手役は小雪。
実は『ランドリー』(2002)の森淳一監督は学生時代の友人です。
映画化が決定するかなり前に脚本も読んでいました。第一稿くらいからね。
なので、窪塚が演じたテル役に対し、自分の中で勝手にイメージを作り込んでいたところがあり。
そう。初見の時は「なんてヘタクソなんだ!」と思いました。
いしだ壱成主演の『聖者たちの行進』の時も感じましたけど、日本の俳優が知的障がい者を演じる時って「それっぽくしてる」感じが強すぎて(だけれども、この頃のいしだ壱成もまた美しかった)。
『ギルバート・グレイプ』でディカプリオが演じた知的障がい者なんか見ちゃうと、あまりの力量の差にガックリきちゃうわけですね。
だけど、映画が公開されて何年か経った後。
女優の田中麗奈がこの『ランドリー』をベタ褒めしていたのを聞いたわけです。その後にAmazonのレビューを見ると、絶賛ばかり。
まったくもってその通り。
当初は窪塚の棒読み口調が気になったわけですが、見返すとそれを補って余りある透明感にクラクラしました。男性の役者で、こんなに透明感のある人は後にも先にもいやしません。
ファンタジーとはいえ、「小雪みたいな人が知的障がい者を本当に好きになるのか?」みたいなファクターもあるわけです。そこの共感を得られないと、観客の気持ちが離れてしまいかねない。
だけど、そうしたツッコミを聞かないのは、窪塚が醸し出す「透明感」とか「そこから生まれる儚さ」ゆえではないかと。
【日本版:映画ポストカード】 「窪塚洋介 ランドリーLaundry 」 (#358)
今の窪塚洋介はこの頃よりずっと演技は上手いけど、この「儚げな透明感」は絶対に出せないと思います。その意味での奇跡的な尊さも感じるし、寂しさとか切なさを感じる作品でもある。
今では大好きな映画です。
窪塚洋介による幻の「樹海ガイドブック」(本人も知らない)
ちなみに、『ランドリー』の森監督に「窪塚くんって好青年って評判らしいけど、ホント?」と聞いたことがあります。
したらば、「ああ、まさに好青年って感じだったね」と。
この映画が公開されたのが2002年。同年に『ピンポン』とか『凶気の桜』とか映画主演作を立て続け、アイドル的人気はこの年がピークだったか。
『凶気の桜』の頃は舞台挨拶でアンチマスコミみたいなTシャツ着てたっけな。
この頃から好青年評価に暗雲たれこみ、
翌年の『魔界転生』(2003)あたりから、彼を取り巻くムードがさらに微妙になってくる。
好青年だったはずが、今に続くトンデモ発言が目立つようになったり。「ガイア(地球)」がどうとか、スピリチュアル星人めいてきたり。魔界転生のスチール写真と合ってますが、偶然です。
でもって、あっさり結婚しちゃったり。
余談になりますが、この頃、知人の編集者が「樹海ガイドブックを作ろうと思ってるんだ」と話していたんですよ。オカルト、UFO、超常現象好きの人でね。
で、その時に「窪塚洋介にガイド頼むかな。こういうの、彼好きなはず」みたいなことを言っていたんですよ。
トンデモの噂がちらほら出つつも、まだアイドル的な余韻を残していた頃合いです。
「じゃあ、ぜひ、私にライターをやらせて♡」みたいなことを編集者に言ったんですが、結局、窪塚くんは候補リストからさっさと外れてしまいます。
なんで?
「今の窪塚に樹海の話なんか持って行ったら(人気俳優路線に)二度と戻れなくなりそう。いい子だし、可哀想な気がして」みたいなことを言っていたのを覚えています。
が、その直後。窪塚はマンションの9階から「アイ・キャン・フライ」してしまいます。主演作『ピンポン』の劇中で「アイキャンフライ」と言いながら橋から飛び降りたようにね。
自殺説は否定。理由は今でも不明。で、九死に一生を得る。
もうこの時点で常人ではありません。
若手俳優として絶大な人気を誇ったことよりも、その後の逸脱した活躍ぶりよりも、「9階から飛び降りたのに死ななかった!」という事実の方が、彼の人生でもっともすごいことという気がする。
『同じ月で見ている』で映画復帰。当初希望の役ではなかった?
アイキャンフライから1年ほどして復帰するわけですけどその直後のインタビューなんか見ると、まだソフトな印象があるわけですよ。
スピリチュアル星人さは漂っていてもナチュラルな美形で、現在のような極彩色イメージはなかった。
ただ、本格的な映画復帰作となった『同じ月を見ている』(05)では痩せたのか、目がギラギラ。この頃から顔が変わってしまっている。
窪塚は映画のクレジットでも一番先だし、主演みたいに書かれているサイトもあるけれど実際には準主役です。主役はどう見てもエディソン・チャン。
プロットは幼なじみの三角関係が根底にあって、窪塚は黒木メイサ演じる幼なじみに恋している。だけど、メイサは刑務所帰りだけど純朴な心を持つエディソン・チャンに惹かれているみたいな感じ。
窪塚はエリート医師だけど人としてはややチンケ。魅力勝負では、エディソン演じる刑務所帰りに完全に負けてしまっている。
『同じ月を見ている』のプレスリリースによると、窪塚も当初、ムショ帰りを演じたがっていたそうですよ。
だけど、観客側からしてもいろいろあり過ぎた窪塚に今さら「純粋無垢なキャラクター」は違和感がある。
本人がそれに気づいたか、周りが諭したかは定かではありませんが、「いっそ、これまでとは違う役をやってみよう」となったらしく。
残念ながら、この作品での窪塚はまだ逸脱し切れていません。演技にも迷いを感じるし、見ていて感情移入もしづらかった。「アイキャンフライ」の黒歴史を越え、それでもまだ芸能界で戦えるだけのものをこの時は感じませんでした。
『東京島』で窪塚洋介を再発見!「好かれなさ加減」を体現する男
正直に言えば、私は窪塚の全出演作を見ているわけではありません。
なので、見落としている活躍もあるかもしれないのですが、「アイキャンフライ」以降の窪塚に初めてワクワクしたのが『東京島』。
ここでの窪塚、サイコーに気持ち悪くて素晴らしい!
プロットは無人島に漂流した女1人と男23人の「逆ハーレム」+「サバイバル」劇みたいな。
唯一の女性を木村多江が演じ、みんなにチヤホヤされます。旦那をくじ引きで決めましょう、みたいな話になったりね。でも、窪塚演じるワタナベはその輪の中には入らない。2人は嫌い合っているわけです。
窪塚が木村にキスしようとして寸止めし、その後「バーカバーカバーカ!キスされると思ってんの?」みたいな場面もある。
一瞬ツンデレ?と思わなくもありませんが、彼の役は極めつけの変人なわけです。亀の甲羅背負って一人で怒ってキンキン声張り上げてね。性欲を抑えきれず男を襲おうとしたりね。
で、窪塚は上手いのか?
と問われれば私にはよくわからない(笑)。オーバーアクト気味のような気もしないでもない。
けれど、力任せのようにも思える雑っとした演技が、ワタナベという役の「人に好かれなさ加減」を非常にうまく醸し出している。
見ていて皆がイヤな気分になるような人物なんですよ。不快なんだけど、印象に残る。見てから10年近く経った今では窪塚の怪演ばかりが記憶に残る映画です。
勝ちですね。
『ヘルタースケルター』「美しいのに、気持ち悪い」という唯一無二のポジション
『ヘルタースケルター』(2012)も気持ち悪くて非常に良かった。沢尻エリカの恋人役でね。うさん臭い社長御曹司を演じていました。
窪塚洋介って容貌そのものは何だかんだ今だって美しいわけですよ。
「美しいのに気持ち悪い」という、他の役者ができないポジショニングをつかんだなと思います。
2002年ごろの、私の中での窪塚のイメージは「話はつまらないけど、びっくりするほど美しい好青年」
それが今では好青年とはほど遠く、だけど、話は面白い。
2002年の頃も、今も、メチャクチャ演技派ってわけではないけど、この人にしかできない役が常にある。
あの頃の窪塚くんがもういないのはさみしいですが、何かを持っているのは変わらない。あまりに極端すぎるけど、良い年の重ね方をした俳優だと思います。
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