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親孝行の前の1冊!黒井千次「老いのゆくえ」で老化をシュミレーションする

40歳を過ぎる頃から老いやら老後やらを考えるようになってくるわけです。

親の老いも真近に迫ってくる頃合いであり、介護保険に強制加入させられる時期でもあり(38歳ごろまで私はこれを知らなかった!今39歳のひと、40歳になったら徴収されますからね)。

でもって、自分の老いも次第に感じ始めるわけですよ。しゃがみ込むと膝がじんわり痛くなる、足がたまにもつれる、正座ができない、書き写し間違いが多すぎる、旅行はしたいけど計画を立てるのは面倒くさいとか。

みじめん
大丈夫?

運動不足の人間は老いが早いという実例のような。40代後半の個人的な老いについてはまた書くとして。

老化を考えるために一冊の本を手に取りました。

 

黒井千次著「老いのゆくえ」です。読むと老親のもどかしさがわかります。アマゾンレビューを見る限り、高齢者の読者が多いようですがその前世代でもシュミレーションがしやすかったり。

今、動けることの有難みはもちろん、後期高齢者である作者が頑張っているのだから自分も何かをしなきゃなと自己啓発めいた気分にもなります。

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老いると人はどうなるかを実地報告

本書は老化現象をこれでもか、これでもかと語ったコラムです。

「コンセント位置、下にありすぎて膝が試練」
「力ずくでナット外したら、翌日から指が痛む」
「手に取った小銭や薬をぼとぼと落とす」
「20年で6センチ近く身長が縮む説」
「80歳を過ぎて転ぶと1年以内に必ずもう一度必ず転ぶ説」

読みながら思いましたよ、もう何年か前に亡くなった両親も似たようなことを話していたと。

みじめん
親が話せば愚痴、作家が書けば貴重な記録に。

 

親から聞かされるとうんざりするのに、似た類の話を進んで読むとは何事か!

結局、表現できる人はいくつになっても強いのだと悟りました。

同時に母が言いたかったのはこういうことだったのね、ちゃんと聞かずに申し訳ない、そんな気分になりました。表現できる人がいれば、分かり合えない溝も浅くなります。

というわけで、親がおじいちゃん、おばあちゃんになり掛かっている方はぜひ。本書を読んでおくのと読まないのとでは関係性の深さも違ってくると思います、親孝行の前にぜひ一冊。

 

あとがきにもありますが、本書は「どうすれば老いないか」「いかに老いと向き合うか」ということよりも、ただ単純に「老いるとは自分がどうなっていくことか」に焦点を当てています。

で、そのシンプルさゆえ読者の年代を選ぶものでもなし。「老いることは素晴らしい」みたいな偽善的なタッチもなし。読み物としても面白いわけです。

40代でも忍び寄る老いの影?

さて、作者の黒井先生は現在87歳。
自分の老いの参考にはさすがに早いかと思ったものの、存外すでに思い当たる節があってギクリともしました。

みじめん
足がもつれるくらいだから

たとえば、著者はホース取替えの際、蛇口をつなぐナットが回らず苦戦します。

力づくで外したものの、その翌日、親指が痛くなって力が入らなくなってしまったそうです。「前にはなんでもなく出来たことが難しくなっている。それに気づかぬのが恐ろしい」と。でもって、原稿書きのための万年筆が握れずに途方に暮れている。

私自身、心当たりはなくもない。

もともと非力なたちではありますが、瓶詰めの蓋など無理に開けると親指が痛むわけです。その瞬間というより、後になって15分間くらい違和感があったり。ひどい時は電気のスイッチを押しただけでその後、親指のハラに違和感が漂ったり。

みじめん
病気なんじゃないの?

スイッチごときで指が痛くなるなんてね。

ただ、最近は起こりません。何だったのかは結局わかりません。
原因はわからないし、病院に行くほどには症状は続かない。

「なにやら不調」みたいなことはこの先どんどん出てくるのだろうなと思います。これまた、老いの前兆のように感じてしまう。

 

 

でもって、この作者の素晴らしいところは「この、なんだかわからない症状」をわからないまま出来るだけ正確に描写しようとしていることです。

不安定なものも、言葉に置き換えると何故か生じる安定感。

マリー・ンディアイ著「三人の逞しい女」でも同じことを感じましたが「そう、それ!よくぞ言葉にしてくれました!」と作家に感謝したくなります。

たとえば、空足を踏む恐怖について触れた箇所。

実際にはないものをあると信じて足を出し、すとんと落ちるケースも意外に多いのだ。

(中略)あると思っていた階段の下りの最後の一段がなく、身体が突然落ちた時に受けた衝撃は内蔵まで届きそうな気がする。

突起物に躓く転倒が外傷につながるとしたら、ないものをあると信じて踏む空足による衝撃は、内傷とでも呼びたいような恐怖を当人に与えているのではないか、と考えてみることがある。
                                               「老いのゆくえ」黒井千次

みじめん
内臓まで届きそうな衝撃ね。わかります

 

自分のことを思えば、年齢は関係なし、10代の頃だって空足にはひやっ!とさせられていたような。つまり、30年近くひやっ!とさせられてきたわけですが、そのことについて誰かに語ったことは一度たりともありませんでした。

誰かの口から語られるのを聞いたのも人生で初めてのような。これだけで、年代を越えた親近感を勝手に抱いてしまうのです。

なお、黒井先生の老いシリーズは「老いのかたち」(2010年)「老いの味わい」(2014年)そして、本書(2019年)の三冊ありますよ。

 

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