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【再掲インタビュー】『スター・ウォーズ』は結局、何がすごいのか?

こんにちは。

ジョージ・ルーカスを巡るインタビュー、ずいぶん前に『GQ』誌に寄稿したものを再掲します。

05年の『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』あたり、新三部作完結編の頃に書いたものだったかと。


スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐(字幕版)

 

魚の目
「スターウォーズって何がすごいのよ?」
魚の目
「監督のルーカスって何で巨匠扱いなのよ?」

ということを、エンタメ業界的にまとめたものとなります。

ファンの方には怒られるかもしれませんが、白状すると私はSWシリーズをちゃんと見たことがなかったわけです。テレビで斜め見した程度の知識しかなくてね。

そうしたプレッシャーもあって猛烈に勉強し、ものすごく時間かけて「自分は最初からSWのプロ」風を装って書いた記事だったのですが、15年経って読み返してみると「硬すぎ」「カッコつけすぎ」。

言葉足らず、読者への親切心がかけており、「わかる人にはわかるよね?」みたいな閉鎖的な感じも少々。書いてる本人が全然わかっていなかったくせに!

再掲にあたり、もっとも重要な点だけ補足しておきます。

『スター・ウォーズ』の始まりはエピソード1ではくエピソード4から始まる。「4、5、6(旧3部作 ※77年~83年)」→「1・2・3(新三部作 ※99年~05年)」→「7・8・9(続三部作 ※15年~19年)」と続く。
ジョージ・ルーカスは旧三部作と新三部作では監督をやったり、製作をやったりしていますが、続三部作には直接関わってはいない。

というわけで、以下。いきなり文体変わります。

スターウォーズはインディーズ映画

ルーカスとスピルバーグの悪ふざけ

その年、ジョージ・ルーカスはスティーヴン・スピルバーグとある取引をした。

互いの映画の収益配当を一ポイントずつ交換する。

ルーカスは『スター・ウォーズ』から一ポイント、スピルバーグは『未知との遭遇』から一ポイント。若きフィルムメイカーにありがちな悪ふざけだった。


スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望 (字幕版)


未知との遭遇 ファイナル・カット版 (字幕版)

ボロ儲けしたのはスピルバーグの方だ。『スター・ウォーズ』は『未知との遭遇』の倍以上の収益をあげた。ルーカスは少しだけ後悔したかもしれないし、スピルバーグも内心意外に思ったかもしれない。

始まりはわずか40館だったのだ。

期待されないB級映画が世紀的な成功へ

1977年5月25日、『スター・ウォーズ』は3週間限定、全米28都市、43スクリーンで封切られた。

さほど期待もされず、よくあるB級映画のひとつとして消えていくかに見えた。だが、客は長蛇の列をなし、やがて劇場数は1600までに増え、20世紀フォックスの株価は急騰した。

製作費1000万ドルで全世界の興行収入は7.75億ドル。

脚本、監督、プロデュースは当時、33歳だったジョージ・ルーカスだ。

西部出身のひげ面の男はフォックスとの契約により、配給収入から40%の収益を手にし、映画キャラクターの関連グッズから莫大なロイヤリティを得た。その資金を元手に彼は『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』を製作する。


スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲(字幕版)

「ハリウッドでは監督にはファイナルカット権すらありません。お金を集めた人が絶対的に強い。クリエイティブな表現をしたかったらプロデュースもしないと」、日米の映像ビジネスに詳しい米国弁護士のミドリ・モール氏は語る。

ルーカスはさらに『帝国の逆襲』で手にした収入を『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』(公開時は『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』)へ、特別篇を合わせ旧三部作で得た収入を新三部作へと投入した。

一作目で資金を提供したフォックスは二作目以降、配給に徹する。作品に口出しすることはできなかった。日本円にして数十億から数百億単位の製作費はルーカス自らが資金を調達したものなのだ。

「SWシリーズはインディーズ映画中のインディーズ。世界一お金の掛かった自主映画ですがルーカスは芸術に走るのではなく、売れるものを作る素質を持ち合わせていた。バランスの取れた人だからこそできたのでは」(ミドリ・モール氏)。


ハリウッド・ビジネス (文春新書)

 ルーカスを大金持ちにしたマーチャンダイズ権

脚本を読んだだけでは意味がわからなかった

「SF映画はヒットしない」「予算がかかりすぎる」ーー『スター・ウォーズ』の脚本は当初、メジャー各社に一蹴された。ルーカスの前作『アメリカン・グラフティ』(73)を製作したユニバーサルも色よい返事を返さなかった。(1000万ドルかかる『スター・ウォーズ』に対し、『アメリカン・グラフティ』は60万ドルのローバジェット作品だった)。

固有名詞の多さも重役たちに不評だった。当時の盟友で同作のプロデューサーを務めたゲイリー・カーツですら「脚本を読んだだけでは意味がわからなかった」とコメントしている。

そうした中で、20世紀フォックス社長だったアラン・ラッド・ジュニアはルーカスの才能を信じ、他の役員の説得に走った。

『アメリカン・グラフィティ』のヒットで10倍のギャラを提示されたが……

ルーカスの監督料は十万ドルだったといわれる。無名の監督が当時のハリウッドで撮るには特に高くもなく、安くもない金額だ。このギャランティは『アメリカン・グラフティ』の大ヒットとアカデミー賞のノミネートをきっかけに10倍近くまで跳ね上がる。


アメリカン・グラフィティ (字幕版)

だが、ルーカスは監督料の値上げを辞退し、マーチャンダイズの全権利とサウンドトラックの権利、出版権を要求した。

フォックスは意外に思った、どころか、内心冷笑したい気分だったかもしれない。

同社は過去に『ドリトル先生 不思議な旅』で玩具メーカーと組みドリトルグッズを販売したことがあった。だが、映画はコケ、グッズもコケた。後に残ったのは大量の不良在庫。損害は二億ドルに及んだ。

どちらにせよ、ミュージカルでもない限りサントラがバカ売れするような市場はなかったし、「あの当時、マーチャンダイズと合体していた映画といえばディズニーくらいのもの。当時のハリウッドでは大きな収入源とは思われていなかった」(ミドリ・モール氏)。

そして、この決断をフォックスは後々まで後悔することになる。

その作品同様、SWグッズは一大ブームとなったのだ。

「当時の市場としてはエポックメイキングな出来事だったでしょうね」、小学館プロダクションは言う。同社は日本におけるSWシリーズのライセンシーを統括。

作品を重ねるごとにメーカー数もアイテム数も増え続け、「エピソード3は前作での収益に対し、150%を見込んでいる」(同)という。この勢いは世界的な現象のようだ。玩具などのSWグッズの市場規模は年内にも1兆円(全世界ベース)を越す見込み。これは興収の2倍に匹敵する数字である。

ルーカスの資産のほとんどはSWグッズから?

現在、ルーカスの総資産は3300億円でその多くがロイヤリティ収入と言われている。

だが、当人はマーケットへの先見の明をやんわりと否定。ロゴ入りTシャツを作り大量に配布し、自分で宣伝するつもりだったと草の根運動のようなことを語り、別のインタビューではスタジオ側が要求しなかった権利を頂いただけだと答えてもいる。

スタジオにとってはビジネスでもルーカスにとってはサイドビジネス。だから、頓着もしない」、興行界に詳しく、スターウォーズ関連の著作を持つ河原一久氏は言う。

「アメリカの批評家たちは『金儲け主義』なんてヒステリックにこき下ろしてますけど彼の生業はあくまでもフィルムメイカーです。誰の指図も受けずに自分の作品を作りたかっただけ」


スター・ウォーズ フォースの覚醒 予習復習最終読本 (扶桑社BOOKS)

そう、契約書でルーカスが一番固執したのは続編を作る権利だったのだ。

 ルーカスが欲しかったのは続編の権利

『スター・ウォーズ』の脚本が完成した時、ルーカスの頭の中には『ジェダイの帰還』までのプロットがほぼ出来ていた。


スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還(字幕版)

だが、仮に第一作がコケてしまったら、スタジオは次を作ろうとはしないだろう。当然の理だった。

シリーズを完成させるには続編の権利を自分で持つことが大事だった。ルーカスがこの時、権利を獲得していなければ『帝国の逆襲』や『ジェダイへの帰還』はまったく別のものになっていたかもしれないし、新三部作においてはそもそも立ち上がることすらなかったかもしれない。

「続編の権利は映画スタジオが保有するケースがほとんど。おかしな話に聞こえるでしょうが、オリジナルで脚本を書き、自ら監督したからといって続編を作る権利は自分のものにはならない」(河原氏)。

例えば、『トイ・ストーリー』はピクサーが作ったものだが、続編の権利を持つのは出資して作品を配給したディズニーである。『トイ・ストーリー2』は両者が提携していたため第一作同様の役割分担となったが、現時点では提携は解消されており、『トイ・ストーリー3』はピクサー抜きで製作される可能性もある(※注:実際にはピクサーが製作した)。

「作り手が続編の権利を主張するのは今では不可能に近くなった。『帝国の逆襲』以来、続編は金のなる木と認識されていますからね」(河原氏)。

ハリウッド一有能な男はハリウッド嫌い

『スター・ウォーズ』はハリウッドを変えたが、当のルーカスはハリウッド嫌いである。

USC映画学科卒業後、彼が参加したコッポラの会社は「ハリウッドのシステムに強制されることのない映画製作」がモットーだったが、『アメリカン・グラフティ』の製作時にはそのシステムの不自由さを痛感することになった。

スーツを着た男たちは彼の作品にことごとく口出しをし、フィルムを切り刻んでいった。

自己資金で映画を撮りたい、そんな思いはことさらに強まったはずだ。また、今も昔もルーカスのオフィスはロスやニューヨークにはない。サンフランシスコ郊外に置いていることからもインディペンデントな匂いが漂ってくる。

一方でルーカスはスタジオとの交渉術に長けていた。一番の恩恵を受けたのはスピルバーグ(『スター・ウォーズ』の収益配当で得をしただけではない)である。

スピルバーグ監督作の『レイダース/失われたアーク』(81)でルーカスは最高のプロデューサーとなった。パラマウントと前例のない契約を結んできたのだ。


インディ・ジョーンズ/レイダース 失われたアーク《聖櫃》 (字幕版)

通常、映画の総収入からスタジオは30%の配給手数料と20%の諸経費を請求できるがこれらを一切カット。

収益が一億ドルを超えた場合、その取り分をスタジオ側とルーカス、スピルバーグ側との折半とした。さらに映画が失敗した場合のため、前金でスピルバーグへの監督報酬150万ドル、自らに製作者報酬500万ドルの支払いを請求。

スタジオには不利な取引に思えたが、ルーカスが絡んだことで株価は跳ね上がり、出資者のパラマウントは大喜びすることになった。なお、スタジオ側はスピルバーグのルーズさを嫌い、彼の起用に難色を示したが撮影スケジュールが狂うことはなかった。ルーカスと仕事を共にし、その点は教育されたらしい。

ビジネスパートナーとしてルーカスほど頼もしい男はいないのかもしれない。生まじめで万事ぬかりはなく、周囲にも徹底して指導する。

小学館プロダクションは言う。「役者のフィギュアでは肖像権の問題が生じる。『役者本人に似ていないフィギュアを作って欲しい』とムチャクチャな指示が出ることもある。けれど、『スター・ウォーズ』に関してはハン・ソロをハリソン・フォードに似せようとまったく問題はない」

スターウォーズが映画界のインフラを作った

こんな話がある。少年時代のルーカスは庭の芝刈りをしてお小遣いをもらっていた。そうして、お金が貯まると最初に芝刈り機を買ったという。まず礎を築く、彼らしいエピソードである。

『スター・ウォーズ』を作るため、ルーカスは特撮工房のILMを設立し、作品を完璧な音響で楽しんでもらうためにスカイウォーカーサウンドを旗揚げし、劇場に向けては新規格のTHXシステムを考案した。

ILMはクオリティも製作費の高さも業界トップと言われ、『ハリー・ポッター』シリーズや『パイレーツ・オブ・カリビアン』『デイ・アフター・トゥモロー』などのビジュアル・エフェクツを手掛けてもいる。

ルーカスはまた、『エピソード1』を撮るためにソニーとパナビジョンに24Pを作らせ、ノンリニアの編集ソフトを開発した。デジタルビデオが台頭し、家庭のパソコンで手軽に映画製作ができるようになったのはジョージ・ルーカスのおかげだと言っても過言ではないかもしれない。

そう、スター・ウォーズ前夜はSFX(今ではVFXと呼ばれるが)という言葉すらなかったし、一話で完結しないシリーズ映画も、夏休みやお正月にあてるお祭りのようなブロックバスター作品もなかった。ハリウッド映画特有の長いエンドロールもなく、映画キャラクターのフィギュアを目にすることもなかったのだ。

ルーカスにはジョブスと同種のビジネスセンスがある

「『スター・ウォーズ』が誕生していなかったら?そうだな、ハリウッドは暗黒面に落ちていただろうね」、新三部作のプロデューサー、リック・マッカラム氏は言う。


スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス(字幕版)

ルーカスはダース・ベイダーやC-3PO、ヨーダを創造し、新しい映画史を創造した。だが、映画界の常識を覆し、年収二百億円を楽々と稼ぐようになった今もその面影はスター・ウォーズ前夜と変わらない。

むさ苦しげなひげにチェックのネルシャツ、そしてジーンズ。専属の栄養士を抱えるようになった今でも食事にはほとんど頓着せず、サンフランシスコ郊外のハンバーガー屋でその姿をたびたび目撃されている。文字通り、衣食は質素で、莫大な資産のほとんどはスター・ウォーズとそれを作るためのインフラ整備に注ぎ込んできた。

「『ビジネスマンですか?』、そう聞かれたらルーカスは即座に否定するだろう。だけど、彼にはビジネスセンスがあった。それはウォークマンを作ったソニーの盛田元会長だとか、iPodを作ったスティーブ・ジョブズなんかと同じ種類のものだと思う。本当に情熱を持って仕事をしている人にはマーケットが何を求めているのかがわかるらしい」(マッカラム氏)。

そして、歴史は続いていく。シリーズ全作を3D化する見通しはほぼ固まり、アニメと実写のTVシリーズも来年にはスタートする予定だ。

(※2005年『GQ』誌より。著作権は当方に帰属しますが、再掲にあたり「ちょっとこれは載せてほしくないな」という方がいらっしゃいましたら速やかに対処いたします)

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