1999年にフリーランスのライターとなり、20年強。
いったい、自分はいくつになったんですか?
考えるのもイヤなわけですが、同時に私は歴史の生き証人でもある。
そんな証人にはなりたくありませんでしたが、原稿料の変遷はこの肌で感じてきました。
短期間で2、3割減からヘタすると半値くらいになったものもあった。
正確に言えば、2005年から2007、8年くらいまでの間に一気に下落し、それが今も続き、生涯この先上がらないだろうなというイメージ。
Webはそもそもがピンキリでしたから、主に紙媒体ですね。
出版不況の折り、当然といや当然、大手の雑誌ほど下落率は高いです。ライターだけでなく、カメラマンやデザイナー、スタイリスト、編集者等々、出版に端を発したフリーランスは同じ悲しみを味わったはず。
といいつつ、ライターが100人いたら、ギャラの相場は100人それぞれ。
以下はあくまで個人的な体感ではありますが、雑誌ライティングの裏側にも言及するつもりなので、現在、Web主体で今後は紙媒体もやってみたいという人たちの参考になるかもと。
天井知らず?の原稿料が半分以下になった話
2000年代前半に毎月のように寄稿していたファッション誌がありました。
雑誌名は……とりあえず、「A」とします。
「そこ一番重要でしょ!」という声も聞こえなくもないのですが、現存するのでね。お世話にもなったのでね。
実は、ありました。
ついでに言えば「B」という雑誌もありました。どちらも潰れました。世知がらいね。
今回は、その「A」ではない「A」誌ということにしてください。
雑誌ライターは原稿料を知らされない?
「A」での執筆は著名人のインタビューが中心で原稿料も悪くありませんでした。
ただし、ページ単価は不明。
今は若干変わってきたかもしれませんが、雑誌って原稿料が先に提示されないのです。
原稿料が安めの弱小誌(ごめんね……)は言ってくれる場合も多いのですが、大手はまず言わない。「クリエイティブなことやってんだから、お金の話なんて」みたいな土壌があるのか、ないのか。
となると、数か月後に振り込まれてから「うわっ!少な」となることも多々。
それじゃあ、困るでしょう、という疑問はもっともなのですが、業界も長くなると相場がわかるものでね。
準大手、中堅どころ:ページ単価1.8万~2万。
業界誌やサブカル誌:ページ単価1万円弱。
(※個人の体感です。編プロを通すと上記の2~3割は安くなる)
Webは「文字数換算」や「1記事いくら」ですが、雑誌の場合は「ページ換算」が主。「原稿用紙1枚いくら」という場合もあるものの、一般紙が多かった自分の経験上は少なかったかな。
文字数は同じでもレイアウトで原稿料は変わる
ちなみに、一般的な雑誌1ページに何文字入るかというと、だいたい2000字くらい。
実際には写真が入ったり、イラストが入ったりしますから、ページによっては1500字になったり、少ない時は400字になったり。ページ単価の場合、1ページの文字数が何文字だろうと、同じギャラです。
3000字を4ページで掲載→原稿料8万円
こうなると、倍違う。
例えば、私が山崎賢人のインタビューをしたとする。したいものですね。
ライターの飯のタネは文章のあるページです。
賢人の顔だけ写真ページはファンには嬉しいでしょうが、われわれライターにはあまり嬉しくない。賢人の顔の下にも私の文章、入れて欲しい。短くとも文章が入れば原稿料対象となります。
つまり、雑誌ライターのギャラはデザイナーに掛かっているともいえる。
2000字のインタビューなら1ページに収めることもできるわけですが、そこをチビチビ5ページくらいに渡って文章流しこんでもらえると、こちとら助かる。
実際は、2000字を5ページに分けるなんて極端なケースは少ないですが
Webの文字数換算に慣れているともろもろ「不公平じゃんか!」と思うのも当然。
原稿料を先に言わんとか、自分の持ち分が何ページになるのかよくわからんとか、雑誌ライティングはあまりに不透明に思えることでしょう。
どんどん脱線していきます。雑誌「A」に話を戻します。
同誌の原稿料は大手の平均並み。と思えば、もっと高い時もありました。
ある時、3000字程度の原稿を2本頼まれたのですが、片方のギャラが6万円、片方のギャラが12万円というよくわからない事態に。
そう思うでしょうが、写真ページを除くと、2つとも似たようなページ構成になっていました。
デザイナーがチビチビレイアウトをした節はなく、6万と12万のギャラの違いは解せなかった。6万が安いというのではなく正直12万が高すぎのような。嬉しかったけど。
編集者の裁量で原稿料が決まるって!?
さて。
同じ頃、知人のカメラマンとお喋りしたわけです。
「A」ってギャラいいよね、みたいな話になったのかどうだったか。カメラマンが言いました。
「以前、『A』の取材でニューヨーク行って、フライト代立て替えた。領収書出すの忘れてたんだけど編集が『大丈夫、ギャラと一緒に振り込んでおくから』って。で、すっごい金額が振り込まれてた」
そうではなく2000年前後の話かと思われます。
若人にとっては大昔でしょうが、若人ではない自分にとっては大昔ではない。そんなことはどうでもいい。
徐々にわかってきたのは「A」は担当編集者により原稿料が微妙に違うらしいということ。
ページ単価とか文字数単価というのではないらしい。私の6万対12万のギャラも担当編集者が別でした。
ちょっと大変そうな取材は編集者裁量で上乗せするみたいなことは、今だって珍しくはない。が、この時の労力はどちらも大して変わらんかったのになぁ。
ページ単価が(ついに)(たぶん)半値以下に!
さぁ、いよいよですよ。
ここまで読んでギャラ下落どころか「いい原稿料もらってたよ自慢になってるじゃんか!!」と思っているあなた。
大丈夫、人生はそう上手くは行きませんから。
「A」から文書が届いたのは2008年の頃か。
小難しい書面で言いたいことは要するに「原稿料下げます」。
「ページ単価一律にします」みたいなこと。
出版不況の中、編集部員の裁量で原稿料決められてたらね。
そりゃしょうがない。私が編集長でも文書通達したくもなる。
ただ、大問題だと思ったのは次の一文。
「一律ページ単価1万5000円にします」
これは、これは、これは、これは。
単価不明ながら、多分だいたい1ページ3万だった雑誌がいきなり1.5万。
それは、それは、それは。
いや、いや、いや、いや。
この国には業務委託に最低賃金がないのです。
法律で定められていない。だから、クラウドソーシングで1記事100円みたいな原稿料があるわけでね。
それをここで言うのは微妙に違うような気もしますが、微妙に同じような気もする。まぁ、単価不明の恩恵にも預かれたわけではある。だから、この展開に「いい気味である」と思っているあなたもいるかもしれないわけで。
いやいや、心優しいあなたなら、そんなこと、思ってもいないはず?
ギャラが半値になっても続けるライターは多い?
えーとね。
自分の場合を言えば、文書が届いた時点で「A」との仕事はほとんどやっていませんでした。
たいていの編集部って入れ替わりが早いわけですよ。
担当編集者の何人かが別の雑誌に移っていった。で、私も彼らとともに別の雑誌で書くようになっていった。
そうこうするうちに編集長が変わった。その上での原稿料再設定ってことだと思います。再設定なのか、初設定なのか、じつはよくわかりませんが。
一方、変わり目の時期をまたがって仕事していたフリーランスの心境を想像するに。
ってところだと思うのですが、けれど、やっぱり引き受けてしまった人の方が多いのではないかと予想します。
当然ですが、お金は最強に大事ですけど、それが唯一の大事さではないからです。文法的にヘンナ文章ですが、気にしないで。
それまで良くしてくれた編集者の依頼を、半額になったからってそうむげには断れないわけです。
付き合いが長ければ長いほど、お金ごときで断れません。仕事が面白いというのもあるかもしれない。この辺、「クリエイティブはお金に換算できないでしょ」思想もはびこっていそうで、それまたどうかと思う反面ね。
断りがたい理由がもう1つあります。
原稿料が下がったのは「A」だけではなく、他の雑誌も同様だったから。
同じ時期、私は大手出版社の新雑誌に寄稿しました。新雑誌だけど、原稿料の話がないのは毎度のこと。
「さらば、Aよ」くらいに思い、こっちは大手で安心、ページ3万くらいもらえるものと踏んでいました。
が!
が!
数か月後、振込口座を見て、より青ざめ度が高かったのは「A」のライターではなく自分だったのではないかと想像します。
新雑誌のページ単価は1万5000円でした。
これは、これは、これは。
それは、それは、それは。
覚えているのは「年越し派遣村」が騒がれていた2008年末頃。あのニュースを見て「苦しいのは派遣ばかりではない」と思った記憶があります。
「若い頃のがギャラが良かった」となりかねないのがライターです
この記事を書くにあたり、似たようなサイトを探しました。
その中で、某ブログに2000年初頭ごろの雑誌の原稿料が抜粋されていましてね。ブログの筆者いわく「引用が古いですが出版社の原稿料は今もほとんど変わらないでしょう」と。
メールしてやりたくなりましたよ。
いや、絶対にそれは違う!絶対に違いますって!
いまいましいですが、そうなのかもしれません。
20年以上やってるのに大してエラくなってない自分が悪いって話でもある。
冒頭で書いたようにライターのギャラ相場ってあってないようなものです。媒体の金持ち度合いによって違うし、編集者によって違ったり、書き手によって違ったりする。
仕事内容は変わらんのに、原稿料だけが乱高下する。
キャリア積んでも若い頃のヘタクソ文章の方がむしろギャラが良かったなんてこともありうるのです。
安い方だと思います。
同じ出版社でも編集部ごとの予算は異なりますからね。ただ、体感でいえば「ページ単価3万→ページ単価2万」くらいまでは下がった感じ。未だ3万のギャラをもらえるのは作家先生くらいの気もしています。
もちろん、大手がこうなのだから中堅や弱小出版社は底なし沼状態なのではないか?
かつては1ページ1万と聞くと、ずいぶん安い気がしましたがページ5000円なんてのもあると聞きますし。
原稿料の高さは労力と比例するのか?
だいたいはyesでしょう。
長くなりそうなので詳細は省きますが、安い場合は、編集者のチェックも甘々なだけに手離れがいいってことはある。
ただし、一部の闇過ぎる雇い主は「文章なんてメール書く感覚で書けばすぐでしょ」と思っている節もある。
そういう相手だと行く先には危険しかない!
先の「年越し派遣村の話」じゃないですが、マスコミは派遣社員の苦境は書いても、フリーランスの苦境は書きません。
だって、報道する側の人間がフリーランスであることが多いですからね。雇い主にツバ吐くようなことはできません。
といいうわけで、私からのアドバイスがあるとすれば、悪いこと言わんから、こんなカオスな世界に入るのはやめとけ!ってことですかね。
クサっても紙媒体。Webよりも原稿料は高い?
思うでしょう。そう思うでしょう。
けれど、自分の周囲を見回すとですね。
20年前にフリーライターで現在もフリーライターという人々は多いのです。中には私の10倍くらい活躍している人もいる。
その傍ら、コンビニでバイトしてたりするのかもしれないけれど、少なくとも「完全にやめた」という人間はあまり聞かない。
要はね、検索画面で「雑誌ライター」と打っても「Webライター」と出て来るような昨今です。
原稿料の平均値は下がったかもしれないけれど、ライターの市場自体は広がっている。
もちろん、Webは紙媒体以上に玉石混交です。が、嫌われ覚悟で言いますと、こちとらキャリア20年以上のフリーライターでしてね。回ってくるのはだいたい玉の方。
いやいやいや、失礼な。定年とかいうほどの年寄りではありませんし。
けだし、言い得て妙ではある。フリーライターなんかやめろ!というのはその点でも言えますね。
通常、編集者は自分より上のライターを使いたがらないものですが、これだけリモート社会になってくると年齢はひと昔前より曖昧模糊としてきます。
見た目問題含め総合的には若人の圧勝ですが、文章だけの勝負なら老若は関係ないわけです。
さらに意味がわからなくなるようなことを言わないでください。
記事の主旨がズレてきたので、そろそろ〆たいと思いますが、逆説的に言えば、カオスな世界ながら年寄りになっても続けることができる世界でもあるってこと。
あなたが駆け出しのライター(今ならWeb主体ですかね)だと想定し、最後に先輩っぽいことを言いましょうかね。
玉石混交過ぎるWebよりも、安くなったとはいえ、紙媒体の方がまだギャラが高いなと思うあなたもいることでしょう。
弱小の業界誌とか自費出版のゴーストライターなんかでも1文字1円よりはずっと高い。
なおかつ、雑誌の場合は署名記事も多いのでポートフォリオにもなりやすいって面もある。
クサっても紙媒体です。
クラウドソーシングの地獄案件で狂いそうになったら、ダメもとでも直で出版社に問い合わせてみるのは一つの手だと思いますよ。
このご時世でライターになりたいと思うような人たちにお送りする「ライターの入り口を探す」第二弾。 前回は就職の話が中心でしたが、「そもそも会社勤めしたくないからライターになりたいんだけど」みたいな不届き者もいることでしょう。 […]