ブログやツィッター界隈を覗くと「1字1円ライターです」みたいなプロフィールを見かけたり、「WEBライターの文字単価をどうやってあげるか」みたいなつぶやきがあったりするわけです。
いきなり、クサすニオイがするなと感じたあなた。
副業であったり、割り切った職人スタンスでいくなら、まったく問題はありません。そのまま文字単価を上げていきましょう。
けれどもし。
もしも、あなたが「あのアスリートに取材したい!」とか「あの有名メディアで書きたい!」なんてことを妄想するクチならば、戦略を練り直した方がいい。
1字1円とか2円とかチマチマ言ってるあなたにはチマチマした仕事しかきません。自分の書きたい分野で書けるライターにはなれません。
そもそも文字単価ベースって文章が上達しにくい構造なんです。
「どうしたら文字単価を上げられるか?」よりも「どうしたら(文字単価以外の)仕事を増やせるか?」を考えた方がキャリアとしては有益です。原稿料もぜったい上がります。
ひどい話ですがそれもまた事実。
今回は、本気でライターとして生計を立てていきたい人のために「クラウド系ライターの罠」とその脱出方法?を少々。
上から目線でいくけど、なんかごめんね。
文字数換算はロジカルではあるけれど……
さて、エラそうなこと言ってる自分は文字単価いくらのライターか知りません。
文字数ベースの原稿換算が始まったのは比較的新しい。クラウドソーシングが台頭してきた2010年代初頭あたりとか。
紙媒体ならページ換算、WEBなら1記事換算ってとこです。それ以前も何も、自分はバリバリ今もその2つしかない。
これまで100近い媒体で仕事してきましたが、文字単価ベースの仕事はいまだゼロです。
なんというのか、この辺り、同じライティングでも世界がくっきり分かれているような気がする。
あいまいですね。
A4サイズの雑誌なら文字きちきちに入れて2000字くらいか。
けれど、写真やイラストが入ったりもしますから、ぎっちぎっちにつめ込むページばかりではない。
すると、どうなるのか?
2000字書いて2万円のページがあれば、800字書いて2万円のページも出てくる。
まったくもって、その通り。
クラウドソーシングを始めたどこかの誰かも「ページ換算は法の下の平等に則ってない」と思ったのかもしれない。
なおかつ、文字換算であれば、一般企業や個人などライティングに詳しくない人でも原稿料の値付けが容易になる。
目の付け所はすばらしいと思います。
これは90年代にブックオフが古本屋に参入した頃に似てなくもない。
ブックオフって最初は素人でも値付けできるよう、中古本の在庫数で本の値段が決まっていました。5冊以上在庫があれば100円にするとか。それが新作であろうと人気作品であろうと一律でした。
でもって、消費者からは大絶賛。古本屋からは喧々ごうごう。価値のわからんやつが値付けするな!みたいなね。
1字1円なら「早くたくさん書いたものが勝ち」修行しかできない
ある意味、そうかも。
「あ」の一文字には何の価値もないからです。
文字数換算は便利ですが、ライターの仕事って「文字」書くことじゃなくて「文章」書くことなんです。
屁理屈こねやがって、と思うでしょうが、文字数ベースだと文章愛は絶対的に薄れやすいと思うんだなぁあああ。
たぶん、多くの出版社やメディアがページ換算や記事換算なのはそこに「ライターへの敬意」もあるからではないかと想像します。
そもそも文字数が多いから大変かというと、その逆もある。
たった400字でピリッとした映画評を書かなきゃいけないとかね。その場合、たった400字をしつように推敲することになる。
あるいは、2000字のインタビュー記事を書く場合。
「これも入れたい」「あれも入れたい」で第一稿が4000字以上になることも少なくない。
そこからどんどん削って何度も推敲して原稿を育てていくわけですが、文字数換算だと「倍以上書くなんて、なんと、もったいない!」「効率悪すぎ!」ってことになる。
その通り。
「神が宿るのは細部」ですから。
でも、文字数ベースだと神を宿らせにくいわけです。
特に1字1円とか言われるとね。
2000字書いて2000円ってことなら、神を宿らせるより、とにかく「早くたくさん書いたものが勝ち」発想になる。
当然です。
私だったらそうなります。一度打った文章は絶対に削除したくない!
「1時間で2000字書きあげろ!」とか「推敲するヒマがあるなら次の1本!」みたいな「産めよ増やせよ」状態に走りそうです。
編集者がいないクラウドソーシングの残念
というわけで、現役WEBライターであるあなたに失礼を承知で申し上げますと、文字数ベースで仕事している限り、ライターとしての成長はやがて頭打ち状態になる。
そう尋ねられるのが、弱いのを知っているでしょうが。
もちろん、絶対に、ではありません。
「早くたくさん書いたものが勝ち」発想のなかで自発的に成長する人もいるわけです。これ言っちゃうとこの記事自体がまったくもってムダになるのですが、どんな状況だろうと伸びる人は伸びるんですよ。
けれど、私のような普通のライターには多分に遠回りとなる。
文字数ベースで仕事発注する相手というもの、結構な確率でライターの仕事をわかっていません。
「良記事とは何か?」を考えたこともない人間から、かけ出しのライターが学べることはほぼない。指示しないならまだしも、トンチンカンな指示を出す相手もいると聞く。
記事の最後を「いかがでしたか?」で〆ろと指定するようなバカものと仕事していたら、あなたにまでバカが移ってしまいます。
ブログ読んでて文末で「いかがでしたか?」とやられるとマルチ商法の健康食品の店に入ってしまったような気がして即効ページ閉じてしまうの。「いかがでしたか?」は便利な言葉だけどいかがわしいの。使わないの。
逆に「いかがでしたでしょうか?」とやられるとその不器用さを応援したくなる年の功。
— みじめん♨️フリーライター歴20年 (@negapink1) June 13, 2020
ホントはね、初期の頃ほどライターにとって編集者の存在は重要なんです。記事を読み、正しい方向へ導いてくれる人がいるのといないとでは、どれほど後の伸びが変わってくるか。
クラウド系ライターより、ライター未経験者の方がまだ有利って?
けれども。
ベテラン編集者ほどクラウドソーシング出身のライターを避けたがる傾向があります。特にクラウドソーシングしかやったことのないライターは超絶不人気です。
だったら、未経験のライター志望者の方が使いやすいぞ!と書く編集者もいます。
クラウドソーシングしか経験がないライターは、ライター未経験者より、タチが悪いかもしれません。悪いクセがついてしまっているからです。
~中略~
クラウドソーシングは、原稿の質を担保する編集者不在のまま、運営者がろくに原稿をチェックしないで垂れ流すことが多いので、ライターはこれでOKだと勘違いするのです。
結局、2000字の文章って書こうと思えば1時間でも書けるわけです。
ですが、何度も何度も見直して1週間かけて書く人もいる。
2000字の文章を1時間で書けるのはスゴイ集中力ではありますが、続けてると、ねちっこく文章を育てていく発想が欠けてくる気がします。
雑な推敲が当たり前になるのはライターとして致命的ではあるので。
マスメディアは新参者を嫌う世界!?
あとはね。
これ言っちゃっていいのか。実際に記事を読んだわけではないけど「クラウド系ライター?ダメダメ」みたいに思っている人も少なくありません。
私自身、クラウドライターの文章レベルに通じているわけではないので、そこのダメ出しはできない。
なかにはとびきり上手い人だっているかもしれない。発注先にだって適切な指示を出せる担当者がいるかもしれない。いや、絶対いるとは思います。
しかしながら、「クラウド出身?」「あ、そう……」みたいになりがちなのがマスメディアの世界です。
以前にも書きましたが、この世界ってとても閉鎖的なんですよ。
未経験者を嫌い、経験者であっても分野違いを嫌う。少し前でいえば、紙媒体はWEB媒体を低くみていた時代があった。そんなことやってるから逆転されちゃうわけですが。
自分の経験でいえば、もとは業界紙記者出身でしたが独立前に「エンタメ系のライターになりたい」とか「雑誌で書きたい」とか言うや、どうも失笑のニオイがした。
良くも悪くも新参者を嫌う業界なんです。
クラウド系ライターから他のメディアに転身を図る際は、ちょっとだけイヤな思いをするかもしれません。
可能性はあるでしょう。
クラウドソーシングも新手の参入者が次々出ていますから、将来的にはもう少しバランスのよい構造になるかもしれない。でも、今年とか来年の話ではない。
ツィッターの仲間たちによると、現在のクラウド系の優良案件はほぼ「ライター指名状態」です。新入りや中堅どころにはその情報すら回ってこない。検索画面に現れるのはショボい案件ばっかり。ショボい原稿料なのにさらに手数料を引かれるという悪循環。
自分だったら、そんなプラットフォームに頼らずに直にメディアに問い合わせるけどなぁ。
「ライター志望なんですけど、仕事ありませんか?」って。
クラウド系ライター同士でつるむとその世界から出られません
でも、そんなの今さら言われたってさ。
言いたいことはわかります。
クラウドソーシングって、そもそも未経験ライターのいきなり門戸だったのですから。
経験がないからそこで経験積んだのに、そこの門下生じゃダメだとかね。
「好き勝手言いやがって!」って話でもある。
いったい、どうすればいいのか?
あなたが副業または職人のつもりで、クラウド系ライターをやっているのであればそのまま続けてください。神は細部に宿らないとしても、1時間で2000字、3000字書けるのは1つの才能です。
そうではなくライター業で自分の分野を築きたいと考えている場合。
徐々にクラウド系以外の取引先を増やしていきましょう。最初は全体の1割、2割でいい。
その割合を徐々に徐々に増やしていく。半分がクラウド以外になったのならすべてをクラウド以外にするのはそうむつかしくはありません。
といっても、この最初の1、2割がもっとも大変だってことですが。
クラウドソーシング嫌いの編集者が多いんでしょ
NG覚悟で挑めば、意外と取れるもんですよ。
「口は悪いが世話好きな人」も一定数いる世界です。先に「クラウド系ライターは未経験者よりタチが悪い」の文面を引用しましたが、書いた編集者はライター志願者の原稿をちゃんと読んでくれるいい人です。
この方のようにライターの原稿を見てくれる編集者もいますから、noteやブログはくまなくチェックすべきです。著名ブロガーが取材ライターを募集していることもありますしね。
正攻法で求人情報で探すのもよし。直接メディアに問い合わせるもよし。
毎日やるべきは情報収集と行動です。問い合わせ続ければ、そのうちチャンスをくれる人は出てくるでしょう。
新参者を嫌う業界といいましたが、それは業界全体のタイプであって、その中にはいろんなタイプの編集者がいる。銀行員がマジメかといえば、マジメでない銀行員がいるのと同じこと。
1字1円以下のクラウドワーカーがそれをやっていいもの?
もちろんです。
1字0.2円とかね、そういう単価で仕事しているとね。「まず、ここで実績作ったら」とか「1字1円になってから」と考えがちです。
コミュニティを制覇していく発想はある意味正しいですし、初期はたくさん書くことも必要です。
けれど、あなたが「いずれ取材記事を書きたい」と思っているとしたら長居は禁物。あなたの記事をちゃんと読んでくれる、方向性をサジェスチョンしてくれる編集者と仕事した方がいい。
あとはね。自分の体感なんですけど、ライターって続けていると媒体とか付き合うグループがだんだんと固まってきちゃうんですよ。
業界紙記者は業界紙記者で固まりがちだし、企業のパンフレット作っているライターは同じような仕事しているライターと固まりがちだし、ファッション誌系はファッション誌系の人と、週刊誌の記者は週刊誌系と固まりがちになるわけです。
で、その他のメディアとは意外とつながりが薄い。
前述しましたが、業界紙記者歴5年あっても「別分野のライター」への転向は一筋縄ではいかなかった。
そこに国境があるんです。意識して動かないとその世界からは出られない。
だからこそ、ツィッターなんかでクラウド系ライターとばかりつるんでしまうと、あなたは永遠にその世界から出られない。
いやいや、現状維持バイアスが働くのが人間です。
今いる場所が一番居心地よく感じてしまうわけですよ。
ですから、書きたい分野があるのなら、一刻も早くその世界に近づくことです。
いきなりすべてを変えなくていい。徐々に徐々に徐々にでもいい。とりあえず、クラウドソーシング以外でライター案件を検索することから始めてみましょうよ。
仕事の探し方? 売り込みの方法?
フリーランスなら、そんなの、各自で考えましょうと言いたいところですが、自分の体験談程度なら、またいずれ。
1999年にフリーランスのライターとなり、20年強。 いったい、自分はいくつになったんですか? 考えるのもイヤなわけですが、同時に私は歴史の生き証人でもある。 みじめん ライターのギャ[…]