福山雅治は「採用確実!」だったはずの知人の会社に落ち、突如無職となりました。
20年くらい前のテレビドラマの話ですよ。遠い記憶を掘り起こすと、今でいう「リファラル採用」に近いものだったような気がします。
福山がいたのはプロレス雑誌をやっている編プロだったか。優秀な編集者であったため、大手出版社に「うちに来ないか」と誘われます。「さすが福山!」ではないですが、円満退社で周囲は祝福ムードです。
が、行くはずだった大手出版社、どういうわけか、福山ではない、別の人物を採用してしまった!
スカウトした相手は平謝り。プロレス出版社は福山案じて大激怒。けれど、人事は覆せない。福山は選ばれない。
退職届は受理されており、今の会社に残ることもできない。突如として無職決定! 記憶違いでなければ、多分だいたいそんな感じ。
ひどい筋書きだと思いましたよ。本人よりも周囲の方が大騒ぎしているのもやりきれなかった。福山は沈む気持ちをごまかして「大丈夫だよ」と答えるしかない。こういう状況、個人的には一番想像したくありません。
ただ不採用になっただけではなく、周囲の全員がそのひみつを知っているだなんて!なんとみじめな事態でしょう。
リファラル採用とは社員の紹介、知人の紹介
そもそも「リファラル採用」とは何か。
社内外問わず信頼できる人間に人材を紹介してもらうこと。縁故というほどコネ感はなく、まぁ、基本は実力です。絶対採用ってわけではないけど、いきなり社長面接なんてこともある。通常のルートよりは近道なわけです。
メルカリやサイバーエージェントあたりが導入を進めていて、フレーズ自体は流行り感たっぷり。けれど、仕組み自体は最近始まったものではない。福山や私が20歳若かった時代から当然のようにあったこと。
そもそもベンチャーの創業期は広告出すお金も時間もないわけです。立ち上がり期でなくとも、企業文化を重んじるなら、社員の友人を当たった方が似た属性の人が高確率で集まりやすい。
ある社長は「知人の紹介だと『明日から突然来なくなる!』という恐怖はだいぶ避けられる」と失笑まじりに語っていましたっけね。
マスコミの中途採用はほとんどが知人経由
ちなみに、私はフリーライターです。その立場から言わせてもらうと、マスコミはリファラル採用ばっかりの印象です。この業界は新しモノ好きなのに閉鎖的で、大手になるほど「一見さんはお断り!」気質を持ちます。
求人情報経由で入社する人よりも、知り合い経由で入ったという社員がほとんどだった気がします。
余談になりますが、フリーランスの仕事も知人の紹介が9割。知人なしの売り込みは効率が悪く、仕事につながることは5回に1回くらい。
他の分野の営業と比べまずまずの率の気もしますが、収益率は低い。
つながったとしても5000円くらいのベタ記事が1件発生して終了みたいな感じ。ベタ記事での差別化は難しくそこからさらに大きな記事には発展しづらいですね。
そう言われますと、ぐうの音も出ません。
一方で、ベタ記事からの脱却が難しい非実力者でも、知人がいれば話は別。
個人的にも経験があります。
営業電話で「けんもほろろ」の対応を取られた編集部。会ってさえもらえなかったのです。
けれど、その1年後、私はその雑誌で連載をスタートしました。この時は紹介者がいたのです。
会ったその日に連載決定。編集部の方は最初の売り込みを覚えていませんでした。こちらもどうにも気まずいので未だに黙ったままでいます。
それは言い過ぎです。
とはいえ、「業界に知り合いのいない場合はどうすりゃいいんじゃ!」状態になりやすいのはマスコミの中途採用です。
この業界に限らず、「リファラル採用」がどんどん進むと求人市場がまたまた険しくなる危険性をはらむ。
業界を変えたい、人生を変えたい、なのにチャンスは減っていくとかね。テーマがズレるのでこの話はまたにしますが。
「社員になりませんか?」 なのに、不採用にされた友人
やっと本題。
リファラル採用は良くも悪くも半径1メートル以内での人探し、です。
求人情報誌を経ての面接よりも採用の確率は高くなる。けれど、絶対ではない。つまり、落とされる可能性もある。
この意味するところは何か?
半径1メートル以内の人間関係での不採用です。「落ちた時のショック」は通常の応募の比ではないはず。
「私が落ちた」ことを周囲のみんなが知っている。
実際のところ、みんなが知っているわけではありませんが、そう思いそうにもなる。
大きく成功できない人間ほどその傾向がありますね。福山の例が未だトラウマになっている自分しかり。
で、実際に私の友人が二人ほどリファラルに「やられて」います。
1人は友人のいる会社の面接を受け、結果的にダメでした。
これは仕方がありません。仕方がないといっても彼らは学生時代からの友人でルームシェアしていた仲。その後の関係性は私でなくとも心配になるところが未だ仲良くやっているらしい。器量を感じますね。
もう1人はもっとひどい。ある会社から外部委託で数年に渡り、仕事を請け負っていました。頭の回転が早くフットワークも軽い。頼りにもされていたし、だからこそ「うちの社員になりませんか?」の誘いが掛かったわけです。
そう、誘ったのはそっちなのです。
けれど、どういう経緯か、他にも本命がいたのか、福山だったのか、わざわざ履歴書書いて社長に会って、そうしてお断りの連絡が来た。そっちが誘ったくせに!
「ひどい話だよね」、後日、彼女は意外にあっさりとした口調で言いました。この時、私は彼女の前で騒ぎ立て過ぎたのかなと思ったのです。福山ドラマのように、周囲が騒ぐと本人はあっさり答えるしかなくなるのかなと。失礼なことをしたと少し反省しました。
が、彼女もまた器量が大きかった。
「社員に誘っておいて落とした」会社と彼女はその後も外部委託で取引を続けました。で、何年経ったか忘れましたが、彼女のもとに大きなプロジェクトが舞い込みました。
彼女をリーダーに推したのは「社員に誘っておいて落とした」会社でした。
友人から不採用を告げられた岩瀬大輔
リファラル失敗談をもう一つ。
ライフネット生命の岩瀬大輔社長の体験です。といっても、当人は失敗だとはまったく思っていないはずですが。
ライフネットを起業する前、岩瀬氏は英国のヘッジファンドからオファーを受けていました。ここまで来ると昔ながらの「スカウト」と言った方が相応しい気もしますね。声を掛けてきたのは責任者クラスの人間。プライベートでの親交も深かったそうで。
が、他の幹部との面談を経て「誠に残念ながら・・・」の結果に。声を掛けてきた友人から直接、不採用を告げられたそうです。
ヤでしょう。
言う方も、言われる方もとてもイヤな感じです。が、岩瀬氏は著書でなんてことない感じでこの件に触れているのです。なおかつ、今でもその人物とは行き来があり、「素晴らしい友だ」くらいの書きっぷり。いわゆる公式発表みたいなものかな、と、勝手に思っていたのですが。
この本を読んだ後に岩瀬社長に取材をする機会があったわけです。
雑談の最中に「アレって、気まずくなかったんですか?」みたいなことを聞いたわけです。
したらば、岩瀬社長、ものすごくびっくりしていました。
そうではなく「考えたこともなかった」と。
そうか、なるほど、そういう考え方もあるんだ。言われてみたら、そうだよなー、みたいな感じ。で、当時の自分の気持ちを分析し続けたわけです。「すごく魅力のある人だったんです。そういう人間関係を失うことに比べたら採用の可否なんて。仕事なんて大したことじゃないと思ってたんじゃないですかね」
成功者はプライドが高くない?
この発想って成功する人の考え方だなと強く思ったわけです。成功する人たちは非常にあっさりしています。
多分、先の友人二人も大いに素質があるでしょう。面倒くさく考えない。逆に、私を含む「あまり成功できない普通の人たち」ほど些末な部分のプライドが高い。そうして、些末な感情にがんじがらめになるのです。
「声を掛けたのはそっちなのに、落ちた。ただ落ちただけではなく周りにカッコ悪いところを見られてしまった!がっくりだ!うんざりだ!これなら声すら掛けられなかった方がマシだった!」みたいなことをネチネチと考えたり。
ね。
けれど、人間に性格がある以上、ネチネチ考えるのはそう簡単にはやめられません。ただ、ネチネチしていても行動だけは変えられます。これ大事。
友人の紹介でダメだった時のダメージは大きい。ですから、ダメージを受けたままでもよい。ネチネチ気に病んだままでいいですから、次のことは実行しましょう。仕事だと割り切ってやるのです。
不採用後に自分の評価を高める方法
大切なことは一つ。友人の紹介でそれが不如意に終わったとしても、直後は絶対に音信不通にしないように。
一か月経っても、三か月経っても、しばらく会いたくないと思うなら会わなくていいですよ。ただし、不採用直後。ここだけは何が何でも直接コミュニケーションを取ってください。
一番いいのは「直接、話す!」
ムリならメールやLINEでもいいですが、電話の方が効きます。今の時代、電話の敷居は高いですが一度話すと「赤っ恥」というのはリセットされやすいです。
どころか、あなたの評価も高まります。なんなら留守電に残すだけでもいい。それをもらった経験から言っています。
以前、化粧品のPRをしていた友人からコピーライターを紹介してほしいと頼まれました。で、Aさんを紹介しましたが、先方が作風を気に入らず。「申し訳ないのだけれど、お断りしました」と連絡がありました。
紹介した私は困りました。が、どう慰めたものか迷っているところ、当のAさんから電話がありました。
「ごめん。ダメだった。紹介してくれてありがとうね」と。
その通り。社会人としてはもちろん、人として負けました。紹介した側が「何といったものか」とウダウダ考えているうちに、その相手の方から連絡が来てしまうとは。
Aさんへの評価がこの電話により2倍くらいに上がったのは当然。
もし、次に何かあった時は今度こそ絶対につなげてあげたいと思うのが人情。前述の「会社落ちたけどプロジェクトを任された人」の場合も、自分が傷ついても相手への誠意を忘れなかったことが大きいのではないかと。
紹介した友人がNGなら電話を掛けてください
これはもちろん、「断られた側」ではなく「紹介した側」からの電話でも言えます。自分が電話を掛けられる状態になくとも、掛かってきたら必ず出ましょうね。
これまた社員採用ではないのですが、個人の体験です。
書籍の企画を連続で断られたことがありました。この時、間に入ってくれたのが付き合いの長い編集者。「もう、これが最後の持ち手」みたいな出版社も結局ダメ。間に入った編集者にも申し訳なく二重にみじめでした。
とはいえど、ふさぎ込んでいることを知られるのはさらに情けない。メールでは「まぁ、仕方ないですねー」くらいの軽さで対応しつつ、感謝の気持ちをしたためていたのですが。
持ち込みが全滅した時、その編集者から電話が掛かってきたのです。一瞬、出るのをためらいました。
だって、私はふさぎ込んでいましたから。
そのことを電話越しにでも知られたくはなかったのですから。
その通り。誰が好き好んで、気の毒な状態の人と話したいものですか!
なので、出ました。話したのはなんてことのないものです。
「いやー、力不足で申し訳ない」「いえいえ、こちらこそ間に入ってもらって恐縮です」みたいなことを軽めの口調(おそらく相手もそれを意識してくれたのでしょう)で何往復か。
電話を切った後、リセットされました。ふさぎ込んだ気持ちじゃないですよ。それは簡単には治りません。けれど、紹介者である編集者(韻を踏んでいるわけではありません)とはこの後もまた付き合いができるだろうと思いました。
次に会った時は、またこの話(全滅の話)から入ることになるかもしれない。けれど、それは今日の電話のように「作りこんだ軽さ」ではなく、「ネタとしての軽さ」に変わっているだろうとも。
なので、勇気を持って(?)電話を掛けてくれた編集者に今は感謝しています。あなたが、紹介者の立場にあり、友人が残念の憂き目に見舞われたら電話1本、これおススメします。
「友人の紹介なのに落ちた場合の対処法」結論
というわけで、「友人の紹介なのに落ちた場合の対処法」結論。
「ミスよりもその後の対処の方が大事」は正論です。一方で、この場合「ミスじゃなくて不運だ!」と言いたい気持ちもかなり正論。
だけど、やはり、不運も同じようにその後の対処の方が大事。
恥ずかしながら、自らの行動というより他者の行動により学んだ次第です。