フリーライターのギャラと労力は比例します。基本はね。
②原稿料が高いものは数日かかる。直しが発生することも多く、手離れはよくない。
多分、これは他のフリーランスでも同じはず。
20年以上の経験から結論をものすごくざっくりと言えば、そういうことになる。
例外はないの?
もちろん、ある。
そんなの、あるに決まってるでしょーが。
一部のクラウドソーシング案件のように、ここは戦前の日本か新興国かってくらいのギャラで長時間働き、ストレスMaxの仕事もある。
逆に、原稿料が高くても編集者の意図をしっかりくみ取れている場合、ライターの直しは少ない。言ってしまえば、経験値を積めば積むほど直しは少なくなり、仕事もラクになるという。
フリーランスは自助努力で時給を上げる。
それが真実でしょう。
お気づきの方も多いでしょうが原稿料の高いものの方が大変ではあるけれど、ライター本人の成長にもつながりやすいという面はある。
というわけで、「私の知ってるライターのギャラ回り」のたぶん第3弾?今回は「労力からみたライターのギャラ」をお送りします。
原稿料の「高い、安い」は何で決まるか?
一つ目は媒体(メディアサイトであったり、雑誌など)の予算ですね。
元も子もないですが、それが一番。
ライターに安い原稿料しか出せない編集部は基本的に人手が足りない。ライターの原稿をしっかりチェックする時間がない、またはできる人がいない。
そもそもが編集者すらいない場合もある。
以前、仕事したインディーズ雑誌ではカメラマンが編集者を兼任してたっけなぁ。
こういう場合、ライターの仕事はひどく厄介なものになるか、やたら手離れの良いものになるかのどちらかです。
確率的には後者の方が多いとは思いますが。
二つ目は「まとめ記事より取材記事の方が高い」という基準。WEBライターから出発した方には多分にお馴染みかと。
実はこれ、私はやったことがないので想像です。
「まとめ記事」にも難度の差はあるでしょうが、短いものなら1時間程度で書き終えられるんですかね?ネットで拾い集めた二次情報で完結できるものもあるんですかね?
部屋から出ずにサクッとできる。コロナ感染のリスクもなし。
対し、取材の場合、スキルも必要だし、取材準備からテープ起こし、実際の執筆と拘束時間も長い。原稿料が高くなるのは当然という。
これはクラウドソーシング界隈に端を発した考え方でしょう。文字数ベースの支払いといい、「まとめ記事<取材記事」といい、非常に合理的ともいえる。「原稿の価値」という、基準のはっきりしないものに誰でもわかる指標を作ったという。
ブログやツィッター界隈を覗くと「1字1円ライターです」みたいなプロフィールを見かけたり、「WEBライターの文字単価をどうやってあげるか」みたいなつぶやきがあったりするわけです。 いきなり、クサすニオイがするなと感じたあなた。 副[…]
まぁまぁ。
ちなみに、雑誌や大手メディアサイトになると「取材記事だから高い」という基準はありません。
「まとめ記事<取材記事」とやっちゃうと極端な話、コラムニストよりジャーナリストの方がエライ論に発展しかねないですから。
で、三つ目です。
「作業がたいへんな方が高い」という、非常にまっとうな指標です。
これは仕事をわかっている編集者しかできない提示です。「このページを作るのにどれくらいの労力が必要か」というのが事前に見えていないとね。
(原稿料が高い)「1ページ8万」の雑誌原稿、実態はひとり代理店みたいな
せっかくなので「作業がたいへんな方が高い」の極端な例を挙げましょう。
少し前の話になりますが、知人のライターがファッション誌で「1ページ8万」の仕事を取ってきた。
読者モデルのインタビューページで文字数的には1000字くらい。当時、大手の雑誌でも原稿料は1ページ3万が相場だった。で、シリーズ化する計画もあった。
妬ましいくらいでしたよ。しかし、話を聞くうちに「絶対に、絶対にやりたくない」と思い直した。
どんな内容だったの?
こんな感じ↓
②候補者全員と編集者やカメラマンの日程を調整し、オーディション日を決める
③オーディション会場を手配する
④オーディションを仕切る
⑤読者モデルが決まったら撮影の立ち合い&インタビュー
⑥落ちたモデルをねぎらう
⑦原稿執筆
かように、ライティング以前がメチャクチャたいへん。
これね。
タレント事務所とつながっていたりすればまだ楽だったかもしれない。本来はそういう人脈のある人がすべき仕事なのかもしれない。
が、彼女にはそっち系の人脈はなかった。自力でかわいこちゃんを探すしかなかった。大学時代の後輩とか知り合いに頼んで片っばしから声かけてました。
しかし、わざわざオーディションに来てもらっても落とされる場合がある。
これほど頼みづらい案件があるか!!って感じの一人代理店状態な。
で、どうにかこうにか初回のページは作ったらしいですが、連載化は立ち消えたようです。精神疲労を考えて彼女が辞退したのかもしれませんが。
原稿料の安い仕事は本当に、手離れがよいか?
一方、原稿料が安い仕事はどうなのか?
下記でも紹介しましたが原稿料が安い代表は「インディーズ誌」「業界紙」「ムック本や本」「WEBサイト」等々です。
1999年にフリーランスのライターとなり、20年強。 いったい、自分はいくつになったんですか? 考えるのもイヤなわけですが、同時に私は歴史の生き証人でもある。 みじめん ライターのギャ[…]
中でももっとも安いと思われるクラウドソーシング案件は幸か不幸か経験がありません。
ですが、ライター人生、振り返ってみると「やっすい原稿料」はたくさんあったわけです。
映画祭サイト:1日10件取材で1万円
まず、物理的にハードだったのは1日10件近く取材して、その日中に6件くらい記事アップして原稿料1万円ってやつ。
朝10時くらいから始まって夜中の2時ごろまで仕事してましたね。
ただ、当人がブラックだと思う要素って「長時間かどうか」だったり「低賃金であるか」よりも、「精神的なストレスがあるかないか」の方が強いと思うんです。
この仕事も「もう一生やりたくないか?」と言われれば、そんなことはない。普通に楽しい現場でした。
映画祭の公式サイトでね。
映画祭の会期中、近くのホテルに泊まりこんで、監督や俳優の舞台挨拶とかティーチインを取材する、あるいはホテルの個室で俳優取材をして合い間に記事を書きまくる、という。
映画好きならたまらんわ
でしょう。
一緒にやっていたチームも仲が良く合宿みたいだったし。誰とやるかって結局、一番大事なところです。
取材内容ですが、例えば、舞台挨拶ならせいぜい10分程度です。終わったら20分くらいで原稿書いて、すぐにアップみたいな感じ。編集者はいないから完全ライター責任です。
でね、20分だとまともな推敲なんかできないわけです。書きっぱなしゆえにラクといえば超絶ラク。
絶対読み返したくない原稿群ですが、今もネット上のどこかにある……。
この仕事、文字数ベースで行くと1文字1円にもならない安さだったと思います。
けれど、現場の楽しさとおのれの書きっぱなし原稿とを思うと、まったくもって適正料金だったという気がしないでもない。
10万字のゴーストライターで30万
もう一つ、取材ものの格安案件を。
その昔、医者のゴーストライターを何度か請け負いました。
患者さんとのエピソードだったり、医師としての哲学みたいな話が多かったので専門分野ばりばりってものでもなかった。けれど、多少のリサーチは必要です。
本一冊分なので取材は長時間。でもって、原稿料は20万~30万円。20年近く前の話なので今はもっと安いんだろうなあああ。
自費出版の会社だったのでね。
ただし、今時分、ゴーストではなく、自分で本出したとしても30万より低い原稿料はレアではないです。下記に書いた通り。
少し前に本を出そうとしてとん挫しました。 いまいましい記憶なので今日はその失敗談ではなく。 その際に、下落っぷりを目の当たりにした印税についてのお話です。 「やはりか。出版不況、削られるのは単行本から」と合点したという。 […]
ともあれ、本1冊書くのは大変ではあるものの、これまた手離れのよい仕事ではありました。
なぜかというと、この出版社、予算の関係なのか、編集者が取材に来なかったのです。
これは私が見つけた法則ですが「編集者が来ない取材=直しは少ない=手離れがいい」です。
大手の編集者というもの、よほどのことがない限り、取材に同席します。いわんや書籍で同席しないってどういうこと? 今なら思いますがね。
編集者が来ないなら誰がサジェスチョンするのよ?と。
この出版社の場合、本の構成をどうするかの打ち合わせもありませんでした。ある意味、私なんかにいきなり丸投げ。
本作りが「ライターと編集の完全分業」みたいな感じだったんですよ。
取材に行った自分が勝手に本の構成決めて10万字ちょいで書ききる。大きな声では言えませんが推敲は1度サクッとやるくらい。最低限の直しをしたら編集者に送っていた。
で、編集者からは「ありがとうございます」のメールが来てその後、本の出版まで連絡はなし。
ライターが第一稿を書いて、編集者が著者とやり取りしながら完全原稿に修正していく。なので、ライターの手を離れたら面倒なゲラチェック(出版前の最終チェック)も一切なし。
完成度としては複数人が何度もチェックした方がそりゃいいわけですが、お金がない編集部の場合はこうした流れになることは少なくない。
編集者が赤入れてライターに送って、戻して、再チェックしてって繰り返すなら「編集者が直しちゃった方が効率的」ですからね。
編集者と一緒に作っている感じがしないドライなやり方ではあるものの、ギャラを考えるとこれまた適正だろうとも。
編集者が取材に同席しない?ゲラチェックがない?
なお、こうした完全分業型(?)は週刊誌や新聞、業界紙にも多いです。
週刊誌の場合は、そもそもが聞き込みする記者と記事をまとめる人と編集デスクとが、分かれていたりする。
私自身はアパレル系の業界紙出身で、同種の業界雑誌でもよく書いていたのですが「取材に編集者が来ない」ということは珍しくなかった。
なおかつ、入稿後、ゲラ(※紙面の見本)が送られてきたことがほぼなかった。
一般誌での取材が増えるにつれ、「編集者って基本、取材に来るのね」「ゲラって必ず送られてくるのね」と思うようになるわけですが。
大事です。
非常に大事なことですが、私は入稿までにめちゃくちゃ推敲するわけです(先のゴーストライティングは別)。ヘタすりゃ10回くらい見直すこともある。
なので、ゲラが送られてくると「ああ・・・もう何度も読んだのに。またしても、これを読まなきゃならんのか」とげんなりするのも事実。
一方、業界誌やゴースト本にはこの過程がなかった。
業界誌も本も公式サイトも全てがかけ出しの頃の収入源でしたが、そういうわけで直しはほとんど入りませんでした。「書いて出したら一発OK!」「すぐ次の仕事にGO!」という状態だったわけです。
「この原稿は載せられない」と映画コラムを突き返された
ブログやツィッター界隈を覗くと「1字1円ライターです」みたいなプロフィールを見かけたり、「WEBライターの文字単価をどうやってあげるか」みたいなつぶやきがあったりするわけです。 いきなり、クサすニオイがするなと感じたあなた。 副[…]
確かに書きましたね。
言い訳すると「産めよ、増やせよ」の時期があってもいい。いや、ライターというもの、書いて書きまくる時期は必要です。でも、どこかでその先に舵を切らないことには、って話です。
お気づきの方も多いでしょうが、「原稿料が安い=直しが入らない=ラク=成長も少ない」って流れにもなりやすいんです。
当初、直しがほとんど入らなかった私は大手や準大手との仕事でメタクタにやられました。「いい原稿でした」みたいな返しが来ることはほとんどなかった。
「これはちょっと……、うちでは載せられない」と言われ、せっかく書いた映画コラムを突っ返されたこともある。
修正指示に困り果てた私を見かね、深夜に編集者が電話してきて長々話し合ったこともある。今ならチャットワークになるのでしょうかね?
ライターというもの、自分含め繊細な人種が多いわけです。原稿にダメ出しされると自分を否定されたような気分にもなる。
が、ダメ出ししたり、直されたりを繰り返すうち、気づかぬうちに、おのれの原稿完成度は高くなっていきます。新しい編集者と仕事をし、「いい原稿でした」と言われ、「おお!自分も成長したものだ」とはたと気づく。
というわけで、最後にもう一度まとめると。
原稿料が高い=厳しくチェックする編集者がいる=直しがある=成長しやすい
もちろん、原稿料安くても「何回書かせるか!」ってくらいのクライアントもいるでしょう。その相手はものすごく優秀か、ものすごく無能かどちらかです。その点についてはまた別の機会に。
時間もその分、多くかかりますしね。
長く仕事を続けたいなら、するっとスルーする取引先も絶対に持っていた方がいい。
なので、最初から高い原稿料を狙うのではなくバランスを考えながら、ちょっとずつシフトしていくのもよいのではないかと思います。
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